小ネタ

SSよりも小さなお話を置く場所。

記事一覧

  • いとしいとし僕の蛇

    20230419(水)19:48
    いつかこの身が朽ち果てて。
    いつかこの魂が地獄に堕ちた時。
    少しでも蛇は、僕という存在から解放されるだろうか?
    そんなこと僕が許せないというのに。
    いつかの柔らかな日々の記憶が僕の覚悟に邪魔をする。

    ねえ、蛇。僕はただ、お前を想って生きて、そうして死にたかっただけなのに。
    そんな優しい夢すらも、もうただの夢だ。
    それが神を娶り、神を堕とした、神からの罰なのだろうか?

    「愛しているよ、蛇」

    永遠に。お前だけを。
    優しい蛇が僕のことを拒絶出来ないことを良いことに傍に置き続けている。
    そんな愚かな男のこと、今の蛇はきっと微塵も想ってはいないのだろうけれども。
    僕はずっと、お前だけを想っている。
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    散文続かない筈だったその後

  • こんな日もたまには、/天魔界事変 異聞

    20230125(水)21:13
    「魔王様ぁぁぁ!! どこにいらっしゃられるのですかぁぁぁ!!」

    悲鳴のような叫び声。私は静かにやり過ごします。たまの休暇、というやつでしょうか? 私にも何も言わずに一人になりたい時というやつがあるので、こっそり執務室から出たのが一時間前。
    天界へ言い付けた用事を済ませた側近が気付いたのが、数分前。只今、私の大捜索が行われていました。

    「やあ、魔王。こんなところで何してるの?」

    「……」

    「待って待って!? 無言で手から炎出さないで!? 僕はただ魔王に会いに来ただけなんだよ!」

    「私に? 何故?」

    「好きな子には会いたくなっちゃ、グファ」

    「私が言うのもなんですが仕事をしなさい堕神」

    「今のは効いたよ、魔王……」

    右ストレートを無駄に良い顔に向けて放ちました。見事なまでに無抵抗だった神は崩れ落ちましたが、むくりとゾンビが生き返るかのように起き上がってきました。この場合はキョンシーでしょうか?
    まあ、どちらでも構いませんが。

    「で? どーする?」

    「何がですか……?」

    「攫ってあげようか。この世界の果てまで、きみが満足するまで。いくらでも」

    「……言葉だけでは証明出来ませんよ? どこに連れて言ってくれるんですか?」

    「手始めに、甘味処とかどうですか? お姫様」

    「是非も無し」

    「では、お手をどうぞ」

    差し出された手。重ねるように神の手に手を重ねました。
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    連作幕の外

  • 羽根をもいで、手足を封じて

    20230111(水)20:47
    いつかきみが居なくなり、僕の傍を離れるというのであれば。
    僕はその手足を繋いで、永遠に離してなんてあげない。

    「そういう覚悟は僕にはあるよ」

    「気色悪ぅ……」

    「酷いな。本気なのに」

    「本気だって方が余計に気色悪いんよ、オニイサン?」

    「えー、じゃあ僕から離れないでくれる?永遠を共にしてくれる?」

    「その思考回路どこからくんの?やだよ」

    「じゃあ、やめない」

    そう笑うオニイサンは私の手首をそっと撫でた。
    どうせ私に似合う手錠の色でも考えているのだろう。
    何を考えているのか丸わかりなのでめちゃくちゃ気持ち悪い。

    「私はそうそう捕まってあげられないよ?」

    「いいんだよ、今のところは自由なきみも愛してあげられるしね」

    「今のところ、ってところが気になるんだなぁ」

    これが私の日常なのだ。ぞっとするね。
    オニイサンはきっといつか私を監禁するかも知れないけれども、その時はきっと私も受け入れているのだろうな。
    まあ、今のところはそんな予定はないけれども。

    「ふふ、僕のことお見通しですって顏してる。可愛いね」

    「気色悪いんですわぁ……」

    「酷いなぁ」

    クスクスと笑うオニイサンはそんなこと微塵も思ってないのだろうなぁ。
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    散文

  • 雷鳴から太陽へ/灰青の音色

    20230110(火)22:38
    雨音に紛れる雷鳴。
    その音が私を苛むのは、いつからか。
    あの日のまま私は何も変わらない。
    あの日にすべての音を置いて来てしまったから。
    だから私は前に進めないで居る。
    そんな言い訳をしながら、生きていくのだと思っていた。
     
    ある日、眩いばかりの光が私の目を焼いた。
    そうすると視界はいつからか見え方が変わってきたのだ。

    不思議な気持ちになった。
    それはある意味、生まれ変わったとような気分だったから。

    「あなたが私を変えてしまったのね」

    眩い光に声を掛けた。
    雷雲の中に居た私を明るい日差しが届く場所に連れて来た人。
    その人はきょとりとした顔をしながらこちらを見て首を傾げる。

    「どういうこと?」

    本当に不思議そうな顔をするものだから。
    それがとてもおかしくて私は少しだけ笑ってしまった。
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    散文連作幕の外

  • 海の中揺蕩う

    20221230(金)21:11
    「海に行きたいわ」

    そう言い出したきみは何故だか悲しそうな瞳をしていた。

    「それはダメだよ」

    海は彼女にとってとても危険な場所だから。
    だから僕は首を横に振った。

    「海に、いきたいわ」

    もう一度同じ言葉を発する彼女。その瞳は相も変わらず悲痛な色を宿していた。
    海に連れていけば彼女はもう二度と帰ってこれないだろう。
    そう分かっているのに、どうして。
    その尾びれは二度と大海を泳ぐことも出来ず、その美しい鱗は二度と海水を叩くことは出来ない。
    彼女は人魚だ。海に居ることが当然なのはわかっている。
    けれども――

    「ねえ、どうして……」

    「……海に、いきたいわ」

    同じ言葉を繰り返す彼女は、壊れてしまっている。
    二度とその心がこの世界に帰ってくることはないだろう。
    海は危険だ。人間である僕と共に生きようとした彼女を殺そうとした。
    だから僕はこの家で彼女を匿っている。――大切な家族に憎悪を向けられ殺されそうになったショックで壊れてしまった彼女を。
    彼女が海に行きたいと、海で死にたいと、そう願っているのであれば叶えてあげればいいのかも知れない。
    でも僕は弱いからか、それとも彼女に魅了されたのか。
    それはもう分かりようもないけれども。

    「きみを手放せない僕を、どうか許さないで欲しい」

    許されたいだなんて思わないから。
    どうか、どうか。
    きみの心がもし帰って来てくれた時に、きみの傍に居られるのが僕でありますように。
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    散文

  • 魔女

    20220919(月)19:06
    「魔女だ!魔女が来たぞ!」

    「火炙りにしろ!」

    「いや!悪魔を従えているかも知れない!まずは拷問からだ!」

    様々な声が聞こえてくる。
    でも、わたしの心には何も響かない。
    わたしはこの国の王子を誑かした魔女として、これから裁判にかけられるらしい。
    どうでも良かった。死ぬのは怖くなかった。
    ただひとつだけ怖かったのは。

    (あなたが居なくなる未来、それだけだわ)
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    散文

  • ふたり一緒なら怖くないわ(灰青の音色)

    20220817(水)15:54
    あなたが居なくても息は出来るけれど、あなたが居なければ私は生きている意味がないの。

    「ね?重いでしょう」

    そう微笑めば、大河は小さく笑った。

    「なんや、両想いやな」

    その言葉があまりに暖かくて、ぼろりと涙が零れ落ちる。
    いつからこんなに涙脆くなったのかしら。
    この人と出会ってからだ。この人と出会ってから、私はおかしくなってしまった。
    けれどそれも悪くないと思ってしまうの。

    「瑠璃葉、二人で幸せにもダメにもなろう。そんくらいの覚悟、出来とるんよ」

    ああ、やっぱり、優しいひと。
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    散文ついったlog

  • 不条理に拾い上げた命/噓つきが吐いた嘘 幕間

    20211212(日)19:47
    「死にたくない……!死にたくないんだ!」

    そう言いながらナイフを振る回す少年は、アタシに向かって走って来る。

    「そうは言われても、あなたここで死ぬのよ」

    「い、イヤだ……!」

    「嫌だって言われてもねぇ……」

    アタシは少しだけ悩んで、そうしてにんまりと口角を釣り上げた。
    その顔は良くチェシャ猫のようだと称される。
    結構気に入っているのよね、その表現。

    「おれは……まだ死にたくない……!」

    「それはきっと、どんな人間もそうなのでしょうねぇ」

    誰しも不条理に殺されたくはないだろう。
    その生を終わらせられたくはないだろう。

    「でも、だからこそ。アタシは不条理にあなたの命を拾いましょう」

    「え、」

    んふふ、と笑ってアタシはその日。殺す筈だったひとつの命を拾い上げた。

    いつか駒として死ぬその日まで。
    あなたの命を生かしましょう。

    きっといつかアタシも殺されるのでしょうけれども。
    それはそれ。その日まで楽しみに生きましょう。
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    散文連作幕の外

  • 誇り抱く桜の如く/悲桜

    20210731(土)12:37
    「劉桜様、桜綺麗ですね」

    「……そうだな」

    静かに呟く隣に立つ御方は、眩しそうに眦を下げ桜を見上げている。
    此処は地上と天界の狭間の場所。
    どうしても地上の桜が見たいと我儘を言って連れてきて頂いた場所。

    「お忙しい中、我儘を言って申し訳ありませんでした。でも、とっても素敵です。ありがとうございます、劉桜様」

    「構わん。……お前が喜ぶなら、それで良い」

    澄んだ湖面のような、落ち着いた声。大好きな声。
    ずっとこの時が在れば良い。いっそ止まってしまっても構わない。
    この御方と共に居て、この御方と共に朽ちたい。
    それ程までに想っているのに、運命とは皮肉なものです。

    「どういうことだ? 睡蓮」

    「天帝に申し上げた通りです。この子は──わたくしと貴方様の子です」

    目も開かぬ赤子を連れて、わたくしは嘘を吐く。この世でもっとも愛おしい御方に。顔で笑い、心で泣くとはこれまさに、ですか。
    自分がこんなにも平然と嘘を吐けるとは思わなかった。
    それでも守りたかった。この世でただひとりの片割れが遺した──忘れ形見を。
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    散文連作幕の外

  • 天高く指輪を放る

    20210731(土)12:13
    憎いのはきっと、他の女のところに行くあなたではなくて。
    その女が憎いわけでもなくて。
    きっと私は、私が一番憎いのだろう。

    「捨てられたら良かったのに」

    あなたに貰った安物の指輪。
    それが嵌められた左手を見ても、私は何も心動かない。
    動かないように蓋をした。

    「大嫌いになれたら、良かったのに」

    それでも私は、あなたを嫌いにはなれなかった。
    あなたを好きなまま、あなたを好きだと思う心を殺していく。
    それはなんとも滑稽で、なんて馬鹿なことなのだろう。
    でも、仕方ないよね。
    先に惚れた方が負ける。
    そんな言葉を思い浮かべながら、左手に嵌められた指輪を天高く放り投げた。

    「さよなら」

    今もどこかで誰かの上で腰を振っている、大好きで憎くて、愛おしいひと。
    あなたを本当に嫌いになる前に、さようなら。
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    散文