乗った飛行機が今まで乗ったことのある飛行機とは違う事。
　それが俗に言うプライベートジェットである事に若葉はもはや何も言えなかった。
　ホテルと見間違うかのような内装をしている飛行機の中を若葉は絶句しながら見つめる事しか出来ない。明らかに住む世界が違うというのに母は困ったように微笑みながらそれを受け入れている。

　「やだわ。シャーロットったら随分と気を遣ってくれたみたいね」

　「また新しい人が出てきたね。それで？その人は誰？シャーロットってことは女性だよね？」

　「お母さんのお友達であり、仕事関連で繋がりがある人よ。あの人やあの人の部下の件で色々とお世話になったり、お世話したりしている関係なの・・・今回の件で影ながら便宜を図ってくれた人だから会ったらちゃんとお礼を言ってね」

　「解った」

朗らかに微笑みながら母は高級な革椅子に腰掛けると満面の笑みを浮かべる。
　少し離れた所に座ったレノックス大佐はキャビンアテンダントに何か話しかけており、彼に対して提供されたのが酒だったことに何とも言えない気持ちになりながら若葉は母の隣に座る。
　シートベルトを締めた若葉は隣に居る母を見ることなく話しかける。

　「今の母さんは私の知らない人みたいだ」

　「え？」

何を言っているのだと言うかのように母が向けてきた視線に対し若葉は気づかぬふりをすると、通りかかったキャビンアテンダントに毛布を持ってきて欲しいと告げると、この場に不釣り合いな小娘相手に向かい嫌な顔することなく、見惚れるような綺麗な営業スマイルを向けられた事に若葉は尚のこと居心地の悪さを感じ取ってしまう。
　若葉は今まで自分の中にあった価値観が音を立てて何もかもが足下から崩れ落ちていくかのような錯覚を抱く。
　飛行機が加速し、上空へと飛び立つのを振動から感じ取った若葉であったが、外の景色を見ることはしない。

　「若葉ちゃん」

　「なに？」

　「怒っているの？お母さんが隠し事をしすぎたから」

　「・・・・解らない」

何もかもが自分の常識外のことが起りすぎているのだ。
　考えることが出来ないほどの事が一度に起りすぎていて、頭がこれ以上考えることが出来ないと言うかのように思考を排除してしまっている。

　「ただ一つだけ言えるのは私が母さんのことを嫌いになるなんて事はないよ」

そっと母の方へと視線を向けながらそう告げれば、母は娘と目線が合った事に対して心底安心したと言うかのように微笑む。
　その顔はいつも見ていた母の顔で若葉はとても安心できた。

　「私ちょっと寝るね」

　「えぇ。ご飯の時間になったら起こすわね」

　「うん。お願い」

毛布を頭まで被った若葉は寝るのに良いポジションを探していた時だ。

　「おやすみ。若葉ちゃん」

毛布越しに頭を撫でられる。
　まるで幼い子供にするかのようなそんな行動に若葉は嬉しさと羞恥が入り交じり何とも言えない気持ちになりながら眠りに落ちていった。