｢っ！｣

彼女を背に庇いながら、その鼻先に刃を向ける。

底冷えするような双眸で彼を見据えるユーハンの瞳は、燃え滾るような怒りを宿していた。



｢そんなに、………そんなにその女が大切なのか？｣

その薄い唇の裾を吊り上げながら嘲るように口にする。




｢………は？｣

意味の分からず訊き返すと、侮蔑の篭もった眼で見返す。

変わらず嘲笑うように唇を歪めながら尚も毒を放った。



｢だってそうだろう？

そこの女は悪魔執事の主という肩書きしか持たないただの女だ。


そんな女をそこまで大切に想う意味が———、｣

理解できないな、と紡ぐ筈だった言葉は、

ユーハンの刃がその前髪のひと房を散らしたことにより途切れる。



｢それ以上主様を侮辱しないでください。でなければ、今度はその眼を抉りますよ｣

ユーハンはにっこりと笑んで見せた。

込み上げる怒りを滲むままに唇へと宿せば、彼の顔色が一瞬にして変わった。



｢お、俺を殺したらその女が———、｣

ざくり。顔の横で音がして、耳の上辺りで束ね三つ編んでいた長髪が切られる。

ぱら、ぱら、と散る己の髪に、怯えきった表情をみせた。



｢侮辱しないでくださいと、そう申し上げた筈ですが｣

きんっ、と蝋燭の灯りを反射した刃を振り上げる。



｢ユーハン、………そこまで｣

その声とともにハナマルが入室してくる。そして、やや遅れてテディを姿をみせた。



｢主様！｣

テディが駆け寄ってきて、みずからの後ろ背に庇ってくれる。



｢ですが、私は………ッ｣



｢主様の顔みて気づかないのかって言ってんだよ｣

低めた声音に静かな憤りが宿っている。

言われるままにこちらへと瞳を巡らせ、そして愕然としてみひらく瞳。



やや結い乱れた髪の狭間から彼をみつめる瞳は怯えと悲しみに染まっており、その眦から雫が伝う。


唇はきゅ、と悲しそうに引き結ばれ、乱れた襟元を押さえる指はかすかに震えていた。