｢お待たせしました、おばあちゃん｣

ヴァリスが姿をみせると、#NAME6#はおもてを上げた。

開いていた本に栞をはさむと、コトン、とマリスの前にキャットフードを入れた皿を置く。



テーブルの上にはトマトとキュウリをはさんだタマゴサンドイッチと、

苺と生クリームのフルーツサンド、

コーンクリームスープの入ったスープカップ、そして

温かな湯気の立ち上るハーブティーのティーセットが並んでいる。



静かに椅子を引くと、祖母の向かいの席に着いた。



｢そんなに待っていないから大丈夫よ。………では、頂きましょうか｣



「「いただきます」」

ふたつの声が重なる。



｢仕事ではどうかしら？｣

#NAME6#がカップにハーブティーを注ぎながら問いかけてくる。

カモミールの芳香を感じながらカップを受け取った。



｢順調です。皆……優しいし、良くしてくれているの｣

それを聴いて、ほっとしたようにその瞳が和む。



｢良かった……。これで、私は………。｣

彼女の微笑には、わずかに寂しさに似た感情が滲んでいた。



かつて見た母の表情とあまりに同一の切なさが視えるようで、

ヴァリスは思わず祖母の服の袖口をつかんだ。



｢おばあちゃん……。｣

おずおずと、それを引く。

不安と心細さに唇をかむと#NAME6#は微笑って彼女の背に軽く手を打ち付けてきた。



｢おまえは本当にリラにそっくりね｣

宥めるように、励ますように。

温かな手が繰り返し背に打ち付けられ、祖母の思考を悟る。



誇らしさと、寂しさの滲んだ子を見送る母のような眼差し………。



それはかつて見た母の表情とあまりに重なって見え、ヴァリスは思わず息を呑む。



温かく、それでいて思慮深い彼女は、

ヴァリスの実母とは似ても似つかぬ内面を宿している。



母がヴァリスをみつめる瞳は冷たく混濁に呑まれていて、そして何処か怯えていた。



母の冷たい指とはまるで違うのに、

ヴァリスはまるで母の指に触れられているかのような錯覚を覚える。