第2章 主人として
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「…………。」
「…………………。」
互いに、それ以上紡ぐことはなかった。
ふた組の足音と、生者の証、それぞれの息遣いだけが廊下を支配している。
(主様………、)
物想いに沈む瞳は、澄んだ色彩ながらどこか淀んでいた。
「主様、ここが食堂です」
彼ととともに足を踏み入れると、焼きたてのパンとスパイスの匂いが鼻腔を擽った。
「おっ! おはよう、主様!」
彼女の姿を見止めたロノが、にっと笑みを浮かべた。
そっと、丁寧な所作でサラダボウルを置くと、こちらへと歩み寄ってくる。
「おはよう」
笑いかけると、ほっとしたように和む、彼の瞳。
「? ロノ?」
「良かった……。昨日はぐったりしてたから心配したぜ」
そう言って、こちらへと手を伸ばしてくる。
ぽん、ぽん、と頭に軽く手を打ち付けると、彼女はすこしばかり瞳をゆらめかせた。
遠いとおい、かなたの記憶を追っているような、儚く哀しげな瞳。
(主様……?)
そのひかりに、ベリアンの胸がざらつく。
昨夜彼女がみせた表情が、思考の奥で甦り、みずからの内で混沌が淀みはじめた。
「ロノくん、主様に失礼ですよ」
その感覚を散らすように、やんわりと咎めると、
「すっ、すいませんベリアンさん」と慌てて手を引っ込める。
「主様、すみませんでした」
やや急いた様子で謝った時には、その両目から切なげなひかりは消えていた。
「ううん、気にしないで」
そっと微笑む彼女。その瞳は常の彼女に戻っていて、先刻の影さえ消し去っていた。
「主様、………こちらへ」
フルーレの先導で、ダイニングテーブルへと近づく静かな靴の音。
その表情は柔く穏やかで、長い睫に縁取られた深い青の瞳は温かさをはらんでいた。
「…………………。」
互いに、それ以上紡ぐことはなかった。
ふた組の足音と、生者の証、それぞれの息遣いだけが廊下を支配している。
(主様………、)
物想いに沈む瞳は、澄んだ色彩ながらどこか淀んでいた。
「主様、ここが食堂です」
彼ととともに足を踏み入れると、焼きたてのパンとスパイスの匂いが鼻腔を擽った。
「おっ! おはよう、主様!」
彼女の姿を見止めたロノが、にっと笑みを浮かべた。
そっと、丁寧な所作でサラダボウルを置くと、こちらへと歩み寄ってくる。
「おはよう」
笑いかけると、ほっとしたように和む、彼の瞳。
「? ロノ?」
「良かった……。昨日はぐったりしてたから心配したぜ」
そう言って、こちらへと手を伸ばしてくる。
ぽん、ぽん、と頭に軽く手を打ち付けると、彼女はすこしばかり瞳をゆらめかせた。
遠いとおい、かなたの記憶を追っているような、儚く哀しげな瞳。
(主様……?)
そのひかりに、ベリアンの胸がざらつく。
昨夜彼女がみせた表情が、思考の奥で甦り、みずからの内で混沌が淀みはじめた。
「ロノくん、主様に失礼ですよ」
その感覚を散らすように、やんわりと咎めると、
「すっ、すいませんベリアンさん」と慌てて手を引っ込める。
「主様、すみませんでした」
やや急いた様子で謝った時には、その両目から切なげなひかりは消えていた。
「ううん、気にしないで」
そっと微笑む彼女。その瞳は常の彼女に戻っていて、先刻の影さえ消し去っていた。
「主様、………こちらへ」
フルーレの先導で、ダイニングテーブルへと近づく静かな靴の音。
その表情は柔く穏やかで、長い睫に縁取られた深い青の瞳は温かさをはらんでいた。