二人で歌うラブソング
■カラオケボックスの男子トイレにて
洗面台に並んで拓真と優利が話している。拓真はしきりに髪型を気にしていて、優利はそれを眺めている。
拓真「あー、まさか姫ちゃん一人だけで来るなんて思わんよなー」
優利「お前が先走ってカラオケなんか誘うからやろ。あの子、断れん性格やから……」
拓真「優利くん、お前まさか僕が悪いとか言いたいん? つか、姫ちゃん一人なら、お前には流れた言うて、僕と姫ちゃんとでデート行ってたわ」
優利「お前、相変わらず姑息やな……あの子、押せ押せでいったら断れんから、お前みたいな奴でも付き合ってまうかもやぞ」
拓真「それ狙ってんねんけど?(悪さを出した低い声)」
優利が拓真の肩を押す。
優利「拓真、お前な……遊び回るんは勝手やけど、相手見て物言えや?」
拓真「んー? ナニナニ? もしかして優利くん、姫ちゃんのこと本気なん? マジで? あの、なんちゃって硬派な優利くんが? あんな女の子一人に、本気になってんの? マジで?」
優利「あの子、エエ子やないか。俺はもちろん本気やけど、お前も……自分の気持ちに正直になったらどうや?」
拓真「……あー、もー……優利くんには隠し事でけんなー。そういうことナチュラルに言うから、モテるんやろなー。さすが僕の親友」
優利「引っ掛けるだけの数で言ったらお前の方が多いやろが。そんなところが、さすが俺の親友……いや、悪友やけど」
拓真「うへへー(照れ笑い)……素直な優利くんに免じて僕も白状するわ。僕も、姫ちゃんのこと、本気やわ。信じられんけど」
優利「あの子はエエ子やと思う。俺とお前、どっちと付き合ったって、きっとエエ方向に向いてくやろな。もちろん、二人共玉砕したら、そん時は――」
拓真「――男二人で飲み明かそうや!」
優利「……是非その結末だけにはならんようにしたいな」
拓真「男二人むせび泣きエンドを回避するには……?」
優利「そりゃ決まってるやろ。ここがどこやと思ってんねん?」
拓真「やっちまう? 僕らの切り札。切ってまう?」
優利「ほんまはあの子の友達も一緒に、どっちがどっちとくっついても文句なしって条件で、やろか思てたけどな」
拓真「僕らのハモリで落ちひん女はおらんからな。ま、どっちとくっついても文句なしってのは、その通りやな」
優利「負けた方は潔く身を引くってことで」
■カラオケボックスの部屋の前。扉の前にて
拓真「なぁ、部屋静かやねんけど、姫ちゃんおらんとか、ない?」
優利「知らんがな。さっさと開けぇ」
優利が扉を開ける。部屋にはヒロインが一人で待っていた。
拓真「お待たせ姫ちゃん! 寂しくさせてごめんな。二人でめっちゃ練りに練って選曲考えてたから」
優利「姫は何か曲選んだ?」
拓真「めっちゃ選んでた痕跡はあるけど、なんや、まだなんも曲入れてへんやん」
ヒロインが申し訳なさそうに謝る。
優利「レディファーストって思ったけど、まずは俺らから歌おか?(ヒロインを慰めるように優しい声で)」
ヒロインが頷くのを確認してから、曲を入れる。
曲のイントロが流れる。男二人で歌う流行りのラブソング。
拓真「僕ら、この曲に気持ち込めて歌うから、この曲が終わったら、姫ちゃんの返事聞かせてな」
優利「心配せんでも、姫が思ったことそのまま素直に言葉にしてくれたら良い。だから、あんま……気負わずにな」
歌が終わる。ヒロインの拍手の音が響く。
拓真「ふー、今日もばっちりやったで優利くん!」
優利「お前もなー。さて、と……姫……答え、聞かせて? 俺か拓真、どっちがエエ?」