百合の時期にはやや早い


 舞い散る桜の花びらを見上げて、彼女はふっと零すように言った。
 その声はまるで微かに響く鈴の音のようだ。静かに心に寄り添うように、それでいてどこにいても聞こえてくるような凛とした声だ。
 彼女はとても、綺麗な声で――己の病気について答えた。
「うん……入院、してた」
 彼女の声は鈴の音のように――震えていた。それでいて、どこか落ち着いた気配も漂わせていた。諦めや自棄からくるものではない。
 そこには普段の彼女からいつも感じていた『力強さ』のようなものを感じた。
「……入院しても、治らない……んやんな?」
 自身の声が、弱々しい。病に侵されているはずの彼女よりも、その声はやけにか細く響く。
「うん……でも、ええよ。そのおかげで……自分の気持ちに正直になれたし。この病気になったこと、私は後悔してない」
「……うん」
 彼女の声が、震えた。熱を帯びて、震えた。
「でも……碧にはほんま、こんな姿見せたくなかった……」
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