【ss】補給班幹部と飯炊き番の日常(非エロ)
「飯炊き番、いるか?」
厨房で昼餉を作っている最中、食材を用立ててくれているいつもの幹部が炊事場へとやってきた。
しかし時は昼時。炊事場が一番忙しい時間だ。鍋を掻き混ぜる手を止めることができない。私は背を向けた状態で、「はいここに」と声だけを返した。
「補給班から新しい食材が届いた。受け取ってほしい」
「分かりました、戸口に置いておいてください」
「ん、承知した。・・・いや、今回は特殊なものがあってだな、確認してほしいのだ」
思えばその時点で、普段の彼とは様相が違った。彼は気遣いのできる人間で、いつもならば私の忙しい時間を避けて業務連絡にやってくる。
だのに今日はどうして、この忙しい時間に確認しろと言ってくるんだろう?対応しようかとも思ったが、鍋を放置するわけにはいかない。
「えーと、後にしていただけませんか?手が離せません」
「暫くなら待てる、手隙になるまでなら」
「まだ少しかかります。幹部殿を待たせる訳にいきませんので」
「大丈夫だ。このままここで・・・」
「後にしてくださいと言っているのです!」
厨房は戦争だ。一日の内で一番忙しい時間にゴチャゴチャと言われて、私は振り向きざまに幹部を怒鳴りつけてしまった。
彼が気の置けない関係の幹部だからというのもある。加えて、彼はこの時間の忙しさを理解しているはずで、その用事というのも、今じゃなければいけない業務に思えなかったのだ。
振り返った先の幹部は、面食らったように後ずさりした。彼のそんな様子はとんと見ることがない。語気を荒げたことを少し申し訳なく思い、すぐに用事が済むなら彼を優先しようかと考え直した。
少し厨房の火を弱め、白布で手を拭きながら振り返る。彼の言うように、足元には食材が一杯に詰まった麻袋。
そして、それより目を引いたのは、彼の右手に握られる、青く瑞々しい一輪の花だった。
「花?」今この場に相応しくない物のような気がして、私は目を丸くした。
確かシノビ草という名の花だ。夜になると輝き出す一方、日中は姿を隠すように目立たなくなる慎ましい花。食べると気配が悟られづらくなるという効果効能もあるが、そもそも気配を消して過ごすイーガ団には、あまり用がない。山菜としても使いづらく、食材として調達されたことは、今までないものだった。
「それは・・・食材・・・でしょうか?」
「いや、あー、違う。お前への、その・・・」
「私、ですか?」
不可解な単語が出て、またもや私は面食らった。いつもは歯切れ良く喋る人なのに、なぜ今日はこうもモゴモゴと、奥歯に物の挟まった言い方をするのだろう?
彼は私の怒鳴り声に萎縮していたようだったが、おずおずと花を差し出してきた。
「外回りをしている最中、目に入ったのだ。・・・今日はお前の生誕日だろう?早くせねばと勇んでしまった、・・・すまん」
私は背中を丸める幹部と、控えめながら美しいシノビ草を、何度も交互に見つめた。
まさか生誕日を彼が覚えているとは思っていなかった。しかも、贈り物まで。
得も言えない感覚がじわじわと胸に満ちる。顔がついつい緩んでしまう。
私は「嬉しいです」と、彼から差し出されたシノビ草を手に取った。
「こんなものですまない。・・・改めて何か用意しよう」
「いえ、十分です。・・・ありがとうございます」
青い花弁を見ていると肩に手を置かれたので、私は彼に寄り添った。見上げると、イーガの面がこちらを向いている。私は彼を見据えたまま口元を晒すように仮面をずらし、その場で少し背伸びした。
・・・その日の昼餉が何故か焦げ臭かった理由は、私と彼だけの秘密である。
コメント
本編を書き始める前に書いたものです。
誕生日のプレゼントを題材に、あと総長夢と筆頭夢も併せて書いてました。