Ch.4:ホワイト・バグ
カイムを解放してから、数日が過ぎた。
シオンの生活は一変していた。かつては冷徹にデータを処理していた指先が、今やキーボードの上で微かに震え、モニターに映る文字列すらも意味をなさないノイズの羅列に見える。
そして、眠るのが怖かった。
瞼を閉じれば、あの酸性雨の音さえ届かない「繭(コクーン)」の深淵へと、強制的にダイブさせられるからだ。
夢の中の「繭」は、現実よりも毒々しく、狂った色彩を放っていた。
気がつくと、シオンはいつものオペレーター席ではなく、冷たい拘束椅子の上にいた。手足には鈍い光を放つ固定具。後頭部には、あの神経同期デバイスの端子が、肉を割って直接脳に食い込んでいる。
「……あ、あ……ッ」
視線の先、かつて自分が座っていた席に、彼がいる。
カイムだ。
現実では傷一つなく街へ消えたはずの男が、今は残酷な拷問官の顔をして、コンソールのレバーを優しく撫でている。
「そんなに震えて、どうしたんだい、シオン」
カイムの声が、直接シオンの髄まで響く。
仮想空間のカイムが、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。その指先がシオンの腹部に触れた瞬間、デバイスを通じて、爆発的な「情報」が流れ込んできた。
【同期率:100%】
「ひ、ぐうっ、あああああ……ッ!!」
ありえない数値だ。人間が耐えられる限界を超えた同期。
だが、夢の中のシオンは、その激痛に引き裂かれながら、同時に脳が溶け落ちるような至上の快楽に、無様に腰を跳ねさせた。
カイムの指先が、シオンの腹を割り、内臓を愛撫する。
痛みは熱に、絶望は渇望に。シオンは椅子に縛り付けられたまま、自分を壊し、凌辱するカイムの手を求めて、喉を鳴らして喘いだ。
「もっと、壊して……カイム、僕を……っ」
二人の境界は消滅し、精神は完全に混ざり合う。
カイムがシオンの内に沈み込み、肉体さえも重ね合わせる感覚。仮想空間のネオンに照らされながら、二人の輪郭はドロドロの神経データとなって溶け、一つに繋がっていく。
シオンは、自分が壊される恐怖よりも、カイムという毒に全身を満たされる充足感に、涙を流して善がっていた。
「……っ、は、はあッ!!」
シオンは跳ね起き、ベッドの上で激しく呼吸を乱した。
部屋の中は静まり返り、窓の外からは相変わらず不快な雨の音が聞こえてくる。
だが、身体は嘘をつけなかった。
心臓は早鐘を打ち、全身を不快な寝汗が覆っている。そして何より、下半身は夢の中の「陵辱」を記憶しているかのように、抗いがたい熱を帯び、シオンの意思を裏切って興奮に固く昂っていた。
「……最悪だ……」
シオンは顔を覆い、呻くように声を漏らした。
あれほど嫌悪し、恐怖したはずのカイム。その彼に屈服し、快楽を貪る自分を夢に見て、現実の肉体が素直に反応してしまっている。
これは、罪悪感という名の拷問だった。
起きている間はカイムの残響に怯え、眠れば彼に従属することを切望する。
かつて自分がカイムに送り込み続けた「神経の暴力」は、今、呪いとなってシオン自身の内側に巣食い、彼のプライドと理性を一歩ずつ、確実に食い破っていた。
「僕は……あんな奴に……」
震える手で昂りを押さえつけても、脳裏に焼き付いた「100%の同期」の感触は消えない。
シオンは暗闇の中で、自分がもはや、カイムという毒なしでは「正常」を保てなくなっている事実に、絶望的な嗚咽を漏らすしかなかった。
シオンの生活は一変していた。かつては冷徹にデータを処理していた指先が、今やキーボードの上で微かに震え、モニターに映る文字列すらも意味をなさないノイズの羅列に見える。
そして、眠るのが怖かった。
瞼を閉じれば、あの酸性雨の音さえ届かない「繭(コクーン)」の深淵へと、強制的にダイブさせられるからだ。
夢の中の「繭」は、現実よりも毒々しく、狂った色彩を放っていた。
気がつくと、シオンはいつものオペレーター席ではなく、冷たい拘束椅子の上にいた。手足には鈍い光を放つ固定具。後頭部には、あの神経同期デバイスの端子が、肉を割って直接脳に食い込んでいる。
「……あ、あ……ッ」
視線の先、かつて自分が座っていた席に、彼がいる。
カイムだ。
現実では傷一つなく街へ消えたはずの男が、今は残酷な拷問官の顔をして、コンソールのレバーを優しく撫でている。
「そんなに震えて、どうしたんだい、シオン」
カイムの声が、直接シオンの髄まで響く。
仮想空間のカイムが、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。その指先がシオンの腹部に触れた瞬間、デバイスを通じて、爆発的な「情報」が流れ込んできた。
【同期率:100%】
「ひ、ぐうっ、あああああ……ッ!!」
ありえない数値だ。人間が耐えられる限界を超えた同期。
だが、夢の中のシオンは、その激痛に引き裂かれながら、同時に脳が溶け落ちるような至上の快楽に、無様に腰を跳ねさせた。
カイムの指先が、シオンの腹を割り、内臓を愛撫する。
痛みは熱に、絶望は渇望に。シオンは椅子に縛り付けられたまま、自分を壊し、凌辱するカイムの手を求めて、喉を鳴らして喘いだ。
「もっと、壊して……カイム、僕を……っ」
二人の境界は消滅し、精神は完全に混ざり合う。
カイムがシオンの内に沈み込み、肉体さえも重ね合わせる感覚。仮想空間のネオンに照らされながら、二人の輪郭はドロドロの神経データとなって溶け、一つに繋がっていく。
シオンは、自分が壊される恐怖よりも、カイムという毒に全身を満たされる充足感に、涙を流して善がっていた。
「……っ、は、はあッ!!」
シオンは跳ね起き、ベッドの上で激しく呼吸を乱した。
部屋の中は静まり返り、窓の外からは相変わらず不快な雨の音が聞こえてくる。
だが、身体は嘘をつけなかった。
心臓は早鐘を打ち、全身を不快な寝汗が覆っている。そして何より、下半身は夢の中の「陵辱」を記憶しているかのように、抗いがたい熱を帯び、シオンの意思を裏切って興奮に固く昂っていた。
「……最悪だ……」
シオンは顔を覆い、呻くように声を漏らした。
あれほど嫌悪し、恐怖したはずのカイム。その彼に屈服し、快楽を貪る自分を夢に見て、現実の肉体が素直に反応してしまっている。
これは、罪悪感という名の拷問だった。
起きている間はカイムの残響に怯え、眠れば彼に従属することを切望する。
かつて自分がカイムに送り込み続けた「神経の暴力」は、今、呪いとなってシオン自身の内側に巣食い、彼のプライドと理性を一歩ずつ、確実に食い破っていた。
「僕は……あんな奴に……」
震える手で昂りを押さえつけても、脳裏に焼き付いた「100%の同期」の感触は消えない。
シオンは暗闇の中で、自分がもはや、カイムという毒なしでは「正常」を保てなくなっている事実に、絶望的な嗚咽を漏らすしかなかった。
