Final Ch.:デッド・リンク・ヘヴン

部屋の片隅で、一台のコンソールが火花を散らして沈黙した。
過負荷に耐えきれなくなったハードウェアが物理的に焼き切れ、室内を充満させていたネオンの明滅も、不快な電子音も、すべてが死に絶える。

だが、シオンにとっては、それが「完成」の合図だった。

「…………っ」

拘束椅子に座るシオンの身体は、もはや微動だにしない。
デバイスの接続端子は、熱で皮膚に溶け落ち、肉と機械が醜く一体化している。物理的なネットワークは遮断されたはずだ。しかし、シオンの脳内――「繭」の最深部では、かつてないほど鮮明な光景が広がっていた。

そこには、もうシオンを苛む「痛み」も「快楽」も存在しなかった。
あるのは、ただ絶対的な、暴力的なまでのカイムという存在そのものだけ。

「……やっと、一つになれたね。シオン」

カイムの声が、シオンの思考のすべてを塗りつぶす。
もはや、どちらがシオンの思考で、どちらがカイムの干渉なのか、その境界線(ボーダー)は分子レベルで消失していた。

シオンの理性は、深い闇の底で、自分の無残な末路をただ眺めていた。
現実の彼は、誰もいない暗いアパートで、廃人として椅子に縛り付けられたまま、二度と目覚めることのない夢を見続けている。外では酸性雨が相変わらず降り注ぎ、すべてを腐食させていく。

(……ああ、これで……いいんだ……)

シオンの最期の破片が、幸福な絶望と共に砕け散った。
正気に戻った時に感じたあの激しい後悔も、罪悪感も、今はこの熱いノイズの中に溶けて、甘美な一部へと変わっていく。

シオンの肉体が、最後に一度だけ、不自然にピクリと跳ねた。
口角がゆっくりと吊り上がり、恍惚とした、しかし生命の宿っていない「人形」の笑みを形作る。その瞳は、現実の何も映していない。ただ、脳内で永遠に自分を壊し続ける、愛しい捕食者の姿だけを焼き付けていた。

数日後、この部屋に誰かが踏み込んでも、そこに「シオン」という人間は見つからないだろう。
そこにあるのは、自分を裏切った男の残響を、永遠に再生し続けるだけの、生きた肉の機械だ。

九龍街のネオンが、雨に濡れた窓を毒々しく照らすなか、街の喧騒から遠く離れた、誰も訪れない路地裏の隅で、一人の男の死体が発見された。深くフードを被ったその男は、冷たい酸性雨に打たれながらも、およそ死体とは思えないほど幸せそうな、満たされた笑みを浮かべていた。

男の冷え切った掌には、一つのメモリスティックが強く握りしめられていた。表面には、細く繊細な筆致で文字がかすれており「--on」とだけ書き記されている。

男の肉体は死してもなお、そのメモリの中に保存された精神データと、永遠の同期を繰り返しているようだった。

その夜、街の巨大な街頭ビジョンでは、無機質なキャスターの声がニュースを告げていた。

『――続いてのニュースです。近年、恋人や愛し合う者同士が互いの精神をデバイスで融合させ、そのまま一生を共にしたいと願い、生命維持を放棄する「精神融合心中」が過去最多を更新しました。当局は、未認可の神経同期デバイスの使用に警鐘を鳴らしていますが……』

雨に煙る九龍街のネオンが、シオンの部屋の窓を毒々しく照らす。
二人の精神が100%混ざり合い、個が消失したその場所で、物語は一滴の救いもない、完璧な静寂の中に埋没した。



【BAD END:永遠の同期(Eternal Feedback Loop)】
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