11.貴方を慕う家族のために
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11.貴方を慕う家族のために
11-1
じとっとにらんでくるのは切れ長の目。その目は私を抱きしめるように腕を回している背後の男に向けられているはずなのに、なぜか私が気まずいという理不尽さはどこにモノ申せばいいものか。
「いつハルタと仲良くなりやがった」
「うっわー男の嫉妬とか醜いよ」
ねー?と言うのはハルタさん。お願いだから私に同意を求めてくるのはやめてくれ。
書類を渡そうとマルコさんを探していたのだが、廊下を歩いていたら突然ハルタさんが背中から飛びついてきたから何か変だとは思ったのだ。背後から抱きしめるような恰好ではあるが別にそこにいやらしさなんてなかったし聞いても「何となく?」とにこにこ笑いかけられたから、まあいいかと思った瞬間、角を曲がってきたのはイゾウさんで。私を見て、ハルタさんを見て、一瞬その切れ長の目を見開いたかと思えば、次の瞬間には銃を向けられていた。
「船内での発砲は認められてないよ」
「撃つと思うか?」
「まあ、ユリトがいる限りは撃たないよ、ね!」
背負い投げをされたかのように一瞬体が浮いた。驚く間もなく「落ちないでね」と言う無茶が飛んできかと思えば、気づいたときにはハルタさんに背負われたまま廊下を全力疾走。いや、なんで?
「このクソ野郎……!」
「おーにさんこっちだ!」
あ、その掛け声はこっちにもあるんだな、と現実逃避した私は悪くない。
廊下を駆け抜け、廊下の壁を蹴り、時にクルーの方を踏み台にまさに地獄の鬼ごっこ。私は走っていないのだけれど、何せハルタさんはぴょんぴょん跳ねたり跳んだり、時に急ブレーキをかけて曲がったり、予想もできない動きでイゾウさんをからかうのだから背に乗っている私はアトラクションに乗っているようなものなのだ。正直に言おう。……酔った。
「は、るた、さ……」
「ん、もうちょっと!」
もうちょっととは。本気でもう吐きそうなんだけど、と思った瞬間まぶしい光が目が目に入って甲板に出るのだな、と思った瞬間また体が浮いた。
「あ」という声はハルタさんか。いや「あ」と言うか、私が限界で腕の力が緩んでいたのにハルタさんが急ブレーキをかけたから私がぽーんと投げ出されたのだが。
甲板に打ち付けられるって分かっても動けなかったら意味ないよなあと思ったのと、力強い何かに抱き留められたのはたぶん同時だったと思う。
靴と甲板が擦れる音がして、最後にぽすんと軽い衝撃。ふらふらながらも顔を上げれば、太陽のような笑みがにぱっとこっちに向けられていて。
「あっぶねー!!間に合った!!気をつけろよユリト!!」
トレードマークのテンガロンハットを私にかぶせて、軽く背を叩くのはエースさん。どうやらぎりぎりで滑り込んでキャッチしてくれたらしい。改めてこの船の人たちの身体能力の高さに感心した。いや、でも……。
うっと口を押さえればきょとりと瞬く黒い目。
「どうした?」
「……ちょっと、酔ってしまって」
「おお、まじか」
そいつはよくねえな、とエースさんが腹筋の力だけで私ごと体を起こすとそのまま背を擦ってくれる。高めの体温が背中を伝わりほうっと息を吐いた瞬間また体が浮いた。
いい怪訝にしてくれとにらむも、白檀の匂いを纏わせたこの人はむすっとしたまま私を腕の中に抱き込むものだから何か言う気も失せてしまう。エースさんよりも低い温度が背中を撫でる。じっとしてくれるならだれでもいいと私は目を閉じた。
「いつハルタと仲良くなりやがった」
「まだその話ですか……」
「はじめからその話だろ」
仲良くなって何が悪いんですか、と言えば「お前が悪い」なんて理不尽すぎる。めんどくさくて、この間お話して仲良くなりました、なんて適当に言えば「ガキか」と返されて私は大きく溜息を。じゃあなんて説明すればいいんだ。というか仲良くなる何が悪いのか。仲良くなる人が多ければ多いほど頼れる数が増えるのだからイゾウさんの負担も減る。イゾウさんにとってもいいことじゃないかと文句を言えば阿保かとまた言われた。……何が阿保だというのか。
「おてんば兎め」
「もしそうだとしても、野生の、ですね」
人には懐きません、なんて言えば頬を引っ張られた。本当に理不尽だ。
助けを求めてエースさんを見ればぱちぱちと瞬きをされてにぱっと。
「仲良しだな!!」
「いや、どこかですか?」
向けられた笑顔はまぶしいがこれのどこが仲がいいと言うのか。日差しが強いから、と再びテンガロンハットを私にかぶせるエースさんは満足げだ。
「イゾウが誰かの世話を焼くのなんて珍しいんだぜ」
「そうですか?」
割と細かい世話を焼いている気がするがのだがと首をかしげる。隊員の体調を見て鍛錬や雑用の配分を変えているし、誰かが忙しそうなときはさりげなく手伝う姿も見かける気が……と、口にした瞬間大きな手が私の口を覆ってもがっと空気が漏れた。
「無駄なこと言うなよ」
「照れてるんですか」
「阿保か」
気づかなきゃそれでいいだろう。わざわざ言うか、なんてまあそうだけども。
「ユリトごめーん」
ちょっと思うことあってにらみ合っていれば、ハルタさんがニコニコしながらかけてきた。人を落としたというのにとてもいい笑顔だ。
「死にかけたんですけど」
「本望でしょ?」
「……いや、そうなんですけどね?」
悪びれもなくそういうハルタさんに確かに、と納得しかけた自分が怖い。いや、確かにエースさんが受け止めてくれなくて打ち所が悪かったら死ねたかもしれないが、できればそんな間抜けな死に方は嫌だ。
「死に方選んでたら死ねないと思うよ」
「兎を殺すわけねえだろ」
「うん?うさぎなら焼くとうめえよな!」
三者三様な意見ありがとうございます。でも話がかみ合っていないし収集が着かない。
「何してんだい」
「救世主……」
「は?」
あきれた顔で甲板に顔を出したマルコさんにかくかくしかじか。だんだんと眉が寄っていくのは申し訳ないが、この会話に収集を付けられるのは彼しかいないので仕方がない。話を聞き終わったマルコさんはとりあえず、とハルタさんを一発殴り、イゾウさんの額をはじいた。うめき声が聞こえたが同情はなしだ。
「阿保はおめえらだ。ユリトで遊ぶな」
「なにさ、マルコまで」
「文字が書けて計算までできる貴重な人材だい。怪我でもしたら字が書けねえだろい」
ああ、なるほどと私は手を打った。
マルコさんの仕事の多さに驚愕したのは最近だ。見れば備蓄の管理や予算管理まですべてやっているようで、これぐらいなら手伝えると言ったときのマルコさんの表情は忘れられない。涙さえ流すのではないかと思うほど感謝された。ちなみに彼は寝不足だった。
「そう言えば昨日の書類確認終わりました」
「ありがとよい」
そもそも初めの目的はこれだったと書類を渡せばひょいと眉が上がった。あれ、何か不備があったかなと思えば、ぐっと眉が寄って「ユリト」と名前を呼ばれて見せられた書類に私は額を抑えた。
やってしまった。自分でうっかりするとは馬鹿すぎる。
「これなんだい?」
みんなが紙をのぞき込む。
見せられた紙は私の筆跡と、その下に連なるのはこの船のクルーの名前。
― if you can cure your father’s illness, do you want to cure it ?―
(もし親父さんの病気を治せるとしたらあなたは治したいですか?)
どういうことだと6つの目がこちらを向く中、ハルタさんが「馬鹿じゃん」と笑った声が痛い。
ああ、本当に馬鹿だ……。
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じとっとにらんでくるのは切れ長の目。その目は私を抱きしめるように腕を回している背後の男に向けられているはずなのに、なぜか私が気まずいという理不尽さはどこにモノ申せばいいものか。
「いつハルタと仲良くなりやがった」
「うっわー男の嫉妬とか醜いよ」
ねー?と言うのはハルタさん。お願いだから私に同意を求めてくるのはやめてくれ。
書類を渡そうとマルコさんを探していたのだが、廊下を歩いていたら突然ハルタさんが背中から飛びついてきたから何か変だとは思ったのだ。背後から抱きしめるような恰好ではあるが別にそこにいやらしさなんてなかったし聞いても「何となく?」とにこにこ笑いかけられたから、まあいいかと思った瞬間、角を曲がってきたのはイゾウさんで。私を見て、ハルタさんを見て、一瞬その切れ長の目を見開いたかと思えば、次の瞬間には銃を向けられていた。
「船内での発砲は認められてないよ」
「撃つと思うか?」
「まあ、ユリトがいる限りは撃たないよ、ね!」
背負い投げをされたかのように一瞬体が浮いた。驚く間もなく「落ちないでね」と言う無茶が飛んできかと思えば、気づいたときにはハルタさんに背負われたまま廊下を全力疾走。いや、なんで?
「このクソ野郎……!」
「おーにさんこっちだ!」
あ、その掛け声はこっちにもあるんだな、と現実逃避した私は悪くない。
廊下を駆け抜け、廊下の壁を蹴り、時にクルーの方を踏み台にまさに地獄の鬼ごっこ。私は走っていないのだけれど、何せハルタさんはぴょんぴょん跳ねたり跳んだり、時に急ブレーキをかけて曲がったり、予想もできない動きでイゾウさんをからかうのだから背に乗っている私はアトラクションに乗っているようなものなのだ。正直に言おう。……酔った。
「は、るた、さ……」
「ん、もうちょっと!」
もうちょっととは。本気でもう吐きそうなんだけど、と思った瞬間まぶしい光が目が目に入って甲板に出るのだな、と思った瞬間また体が浮いた。
「あ」という声はハルタさんか。いや「あ」と言うか、私が限界で腕の力が緩んでいたのにハルタさんが急ブレーキをかけたから私がぽーんと投げ出されたのだが。
甲板に打ち付けられるって分かっても動けなかったら意味ないよなあと思ったのと、力強い何かに抱き留められたのはたぶん同時だったと思う。
靴と甲板が擦れる音がして、最後にぽすんと軽い衝撃。ふらふらながらも顔を上げれば、太陽のような笑みがにぱっとこっちに向けられていて。
「あっぶねー!!間に合った!!気をつけろよユリト!!」
トレードマークのテンガロンハットを私にかぶせて、軽く背を叩くのはエースさん。どうやらぎりぎりで滑り込んでキャッチしてくれたらしい。改めてこの船の人たちの身体能力の高さに感心した。いや、でも……。
うっと口を押さえればきょとりと瞬く黒い目。
「どうした?」
「……ちょっと、酔ってしまって」
「おお、まじか」
そいつはよくねえな、とエースさんが腹筋の力だけで私ごと体を起こすとそのまま背を擦ってくれる。高めの体温が背中を伝わりほうっと息を吐いた瞬間また体が浮いた。
いい怪訝にしてくれとにらむも、白檀の匂いを纏わせたこの人はむすっとしたまま私を腕の中に抱き込むものだから何か言う気も失せてしまう。エースさんよりも低い温度が背中を撫でる。じっとしてくれるならだれでもいいと私は目を閉じた。
「いつハルタと仲良くなりやがった」
「まだその話ですか……」
「はじめからその話だろ」
仲良くなって何が悪いんですか、と言えば「お前が悪い」なんて理不尽すぎる。めんどくさくて、この間お話して仲良くなりました、なんて適当に言えば「ガキか」と返されて私は大きく溜息を。じゃあなんて説明すればいいんだ。というか仲良くなる何が悪いのか。仲良くなる人が多ければ多いほど頼れる数が増えるのだからイゾウさんの負担も減る。イゾウさんにとってもいいことじゃないかと文句を言えば阿保かとまた言われた。……何が阿保だというのか。
「おてんば兎め」
「もしそうだとしても、野生の、ですね」
人には懐きません、なんて言えば頬を引っ張られた。本当に理不尽だ。
助けを求めてエースさんを見ればぱちぱちと瞬きをされてにぱっと。
「仲良しだな!!」
「いや、どこかですか?」
向けられた笑顔はまぶしいがこれのどこが仲がいいと言うのか。日差しが強いから、と再びテンガロンハットを私にかぶせるエースさんは満足げだ。
「イゾウが誰かの世話を焼くのなんて珍しいんだぜ」
「そうですか?」
割と細かい世話を焼いている気がするがのだがと首をかしげる。隊員の体調を見て鍛錬や雑用の配分を変えているし、誰かが忙しそうなときはさりげなく手伝う姿も見かける気が……と、口にした瞬間大きな手が私の口を覆ってもがっと空気が漏れた。
「無駄なこと言うなよ」
「照れてるんですか」
「阿保か」
気づかなきゃそれでいいだろう。わざわざ言うか、なんてまあそうだけども。
「ユリトごめーん」
ちょっと思うことあってにらみ合っていれば、ハルタさんがニコニコしながらかけてきた。人を落としたというのにとてもいい笑顔だ。
「死にかけたんですけど」
「本望でしょ?」
「……いや、そうなんですけどね?」
悪びれもなくそういうハルタさんに確かに、と納得しかけた自分が怖い。いや、確かにエースさんが受け止めてくれなくて打ち所が悪かったら死ねたかもしれないが、できればそんな間抜けな死に方は嫌だ。
「死に方選んでたら死ねないと思うよ」
「兎を殺すわけねえだろ」
「うん?うさぎなら焼くとうめえよな!」
三者三様な意見ありがとうございます。でも話がかみ合っていないし収集が着かない。
「何してんだい」
「救世主……」
「は?」
あきれた顔で甲板に顔を出したマルコさんにかくかくしかじか。だんだんと眉が寄っていくのは申し訳ないが、この会話に収集を付けられるのは彼しかいないので仕方がない。話を聞き終わったマルコさんはとりあえず、とハルタさんを一発殴り、イゾウさんの額をはじいた。うめき声が聞こえたが同情はなしだ。
「阿保はおめえらだ。ユリトで遊ぶな」
「なにさ、マルコまで」
「文字が書けて計算までできる貴重な人材だい。怪我でもしたら字が書けねえだろい」
ああ、なるほどと私は手を打った。
マルコさんの仕事の多さに驚愕したのは最近だ。見れば備蓄の管理や予算管理まですべてやっているようで、これぐらいなら手伝えると言ったときのマルコさんの表情は忘れられない。涙さえ流すのではないかと思うほど感謝された。ちなみに彼は寝不足だった。
「そう言えば昨日の書類確認終わりました」
「ありがとよい」
そもそも初めの目的はこれだったと書類を渡せばひょいと眉が上がった。あれ、何か不備があったかなと思えば、ぐっと眉が寄って「ユリト」と名前を呼ばれて見せられた書類に私は額を抑えた。
やってしまった。自分でうっかりするとは馬鹿すぎる。
「これなんだい?」
みんなが紙をのぞき込む。
見せられた紙は私の筆跡と、その下に連なるのはこの船のクルーの名前。
― if you can cure your father’s illness, do you want to cure it ?―
(もし親父さんの病気を治せるとしたらあなたは治したいですか?)
どういうことだと6つの目がこちらを向く中、ハルタさんが「馬鹿じゃん」と笑った声が痛い。
ああ、本当に馬鹿だ……。