13.当日、午前
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届いた報せ。
予測は出来ていた。いつだって覚悟はしていたはずだった。
しかしいざ現実になってしまうと、想像以上の衝撃に襲われた。
あんな別れ方で良かったのか。
あんな態度で良かったのか。
あんな言い草で良かったのか。
まただ。また、この後悔だ。
自ら選んだくせに、また失敗した。取り返しのつかない失態だ。
「………忠朝、」
お家を失い、彷徨っていた所を受け入れてくれた存在達が、案ずる視線を送っているのがわかる。
しかしそれに応える余裕など、今の忠朝には持ち合わせていなかった。
薩摩の地で再会した肉親。
とうに死に絶えていたと思われていた妹は、前田家と武田家に保護され生命を繋いでいた。
己が帰すると決めた徳川とは敵対関係であったため、言葉では和解できず、あの場で刃を交えるしかなかった。
『兄上と戦いたくない』
『こんな現実のために戦場を目指したんじゃない』
細かな事情を聞かずとも、妹の太刀筋はずっとそう嘆いていた。本質は幼い頃のまま。忠朝自身もそうであるはずだった。
なのに、最愛に刃を向けていた。泣かせた。
決着はつかぬまま別れ、そしてついに訃報を受け取った。
届いた報せによれば、乱入した松永軍に武田・伊達の同盟軍は壊滅状態へ追い込まれ、そんな中 妹は敵大将と相討ちしたという。
『守るの!わたしも守るんです!みんなを…!』
『最後』の戦に経つ前まで、そう言っていたあの幼子はそのまま、長い長い時を、最後まで…。
「………、」
何も出来なかった。何か出来たのではないか。再会していたというのに。生きている事を知っていたというのに。
……いや、己を恨むのは後だ。今じゃない。
「同盟軍が壊滅したというのなら、いよいよ俺らが石田軍と真っ向から敵対する」
「忠朝!」
『ギュギュン!』
現実から目を背けるように、心を隠そうとする忠朝に、家康と忠勝が声を上げる。
零れ続ける涙を拭う事もせぬまま、軍議に移そうとする姿は、誰の目にも痛々しく映る。
「今は休んでいい。何もすぐに…」
「言ってる場合か。交戦は始まっている」
『ギュン、ギュイ…!』
「いい!もう、これ以上……後悔したくない…!」
普段感情を表に出さない忠勝が声を荒らげた。
机に叩きつけられた拳は、篭手越しにも血が滲む程力が込められているのがわかる。
本隊同士ではなかったものの、既に石田軍との衝突は始まっている。決して油断のできない状況。不測の介入によって同盟軍も一瞬で散ったというのならば、こちらも呑気に構えている場合ではない。
実に筋の通った言い訳を盾にする忠朝に耐えきれず、家康は力の籠ったままの手を両手で握った。
「心を覆い隠さねばならないのならば、儂はこれ以上お前を後悔させない!悲しませはしない!そんな世を、儂が為す!」
真っ直ぐな目が忠朝を映す。慈愛の眼差しには親愛の意思が窺える。
結局またこうだ。拾われた時から、いつだって己はボロボロで、無力で。悲しみに沈む中差し伸べられた掌はやはり暖かすぎると、忠朝は目を背けた。
「……して…、そんなに尽くす。俺は、もう、お前達には十分、良くしてもらっている……何年も、ずっと……返しきれない程に…」
ギュン、と軽い駆動音と共に、養父・忠勝の掌が忠朝の頭を優しく撫でる。
実の家族の様に弱さを受け止めてくれるこの徳川主従に、嫌でも全身の緊張が和らごうとするのがわかる。
「だから一人で抱え込まないでくれ、忠朝。儂は、お前と忠勝と……皆で一緒に歩んで行きたいんだ」
「……そんな事を言うとはな」
「お前が先に何でも一人で背負おうとするから。お陰で儂も踏み留まる事が出来てるんだ。独りにならないでいられる」
以前ほんの少しだけ話した忠朝の妹と、やはりお前はよく似ていたな、と家康は思う。
頼もしいが責任感が強く、愚かなくらいひたむきで。だから放っておけなくて。
時には人一倍不器用に己を摩耗させて戦う姿は、家康にとって紛れもなく護るべき対象でもある。
家康の心に触れ、落ち着きを取り戻りつつある忠朝の背を忠勝が優しく撫でている。珍しく無抵抗なのをいい事に膝の上に乗せたそうにしているが、流石に怒られそうなので我慢しているようだ。
「だから進もう、一緒に。この決戦でまた多くの犠牲が出るだろう。だからこそ逃げずに全てを受け止め、太平への志を儂等で掲げるんだ。これで、終わらせよう!」