12.追憶
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「せーんぱい。朱音先輩っ」
耳慣れない響きに振り返ると、見覚えのある少年が駆け寄ってきた所だった。
「先輩……、わたしが…?」
転校生かつ正式な部活に所属していないため、到底呼ばれないであろうと思っていた呼称だ。
「でしょ?君は二年なんだから。もう元気になった?」
爽やかな笑顔が様になっている金髪の少年、小助。家庭科部に所属する男の子だったはずだ。
「お陰様で。ご心配おかけしました、小助くん」
「だぁ〜から、小助でいいって。他に誰も『君』なんてつけてないし」
「でもちっちゃくて可愛らしいし、」
「ちっちゃいって言わないの」
平均より低い身長は本人も気にしていたようで不服そうな視線を寄越されてしまった。
でもすぐ表情を切り替えると、更に朱音に寄ってきた。
「でも今日までに登校できるくらいになってよかったね」
学園祭当日まで指折りできる程の日数になった。本日から通常授業は行われず、学園祭準備の為だけに学園が解放されているのである。
世にも珍しいクリスマス・イブに行われる学園祭。つまり二学期終業日より後に行うため、授業がなくなるは当然なのかもしれないが、常識に収まらない気合いの入れように朱音もワクワクが止まらないのである。
「家庭科部の差し入れ、本当に沢山ありがとうございました」
「いいのいいの。沢山フィードバックもらえたし、俺らもだいぶ練習できたし食べれたし、win-winってやつ。今日からは販売用に取り掛かるからもう渡せないけど…」
「頑張ってくださいね。当日顔を出せたら是非購入させてください」
「そっか運営委員は学内巡回もあるんだっけ?それなら特別に先輩のは取り置きに……」
にこやかで饒舌だった小助が不意に言葉を止めた。どうやら朱音の背後を見ているようで、振り返ってみるとその理由がわかった。
彼とよく似た金髪を揺らしながら近づいてくる女生徒の姿があった。
朱音に用があったようで女生徒…かすがはこちらへ真っ直ぐに向かって来ると、無言になった小助を怪訝そうに見つめている。
「………なんだ、その反応は」
「…別に。そろそろ焼き上がるから俺戻んなきゃ〜。バイバイ、朱音先輩」
「は、はい、小助くん」
「こすけだってぇの〜」
言いながら走り去っていく小助の脚は存外速く、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「……全く、いつまで恥ずかしがっているんだか」
校舎に消えて行った影にかすがが息を吐いた。
恥ずかしい、という言葉に朱音が首を傾げると、かすがが経緯を話してくれた。
「ほら、小さい頃なかったか?学校できょうだいと会うと、どんな反応すればいいかわからなくなるやつだ」
「言われてみれば……?少し気まずいような、照れくさいような」
「それだ。家だと遠慮なく話し続けてくる癖にな」
家族間の絶妙な距離感。朱音にもほんのり覚えがあって得心がいく。照れ屋な身内の事はさておき、とかすがは本題を切り出すべく改めて朱音へ向き直った。
「今から新体操部の最終リハだ。第一体育館で当日と同じセットでやるんだが……お前、結局忙しくしてて一度も見に来ていないだろう?」
「い、行きたいです!」
「来るといい。20分もあればリハは終わる。それくらいなら抜けても誰も文句は言わないだろう?」
その為だけにわざわざ探しに来てくれてたようで、頷いた朱音にかすがは微笑むと早速体育館へ歩き出した。