11.お礼※
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盟友が自分で戻ってくるまではこの場で待っていよう。
そうして枯れ上がった草原に政宗は一人佇んでいる。
陰惨とした地面に対し、不気味なほど晴れ渡った夕暮れだ。やがて陽が沈めば空もこの大地と同じ色になるだろうが。
考える事は沢山ある。まだ自軍の残像勢力も把握しきれていないし、徳川方や石田方の情報も入っていない。逆にこちらの情報がいずれ知れ渡る事も考えれば、悠長に構えていられない。
喪ったもの達に思いを馳せるのは後だ。
わかっている。わかってはいる。
「………政宗、様…」
俯いていた所に降ってきた声に政宗は覚えがあった。
考える間もなく振り返ると、喪ったはずの腹心が立っていた。
「…………小十郎!」
全身火傷と煤まみれで、よろめきながら歩いてくる小十郎に政宗は慌てて駆け寄る。
痙攣しながら座り込んだ小十郎の上体を政宗が支えた。
「お前…、……生きて…!」
「……猿飛…、真田の忍の計らいです」
前ぶれなく、突如侵攻してきた松永軍。
手薄の陣形から崩しながら、あっという間に小十郎と佐助の護る陣まで迫られた。
松永軍の雑兵は辛うじて同盟軍の兵達で拮抗しているようで、単身乗り込んで来た松永久秀と二人は相対した。
『今度こそ取り逃さないよ』
こちらが大戦に集中している隙を付き、情報を集め、周到に準備をしていたようだ。
以前より威力が増し、容赦ない爆炎に翻弄された末の事だった。
『アンタは大将達の元へ行け』
松永の照準から逃れるべく、移動し続けながらの戦闘中。ふとしたすれ違い様に佐助は小十郎に耳打ちした。
二人とも満身創痍。まともに戦える状態からとうに遠ざかっているのだが、佐助がそう言ったのは……。
「この戦の先を見据えて、だったのでしょうな…」
「………小十郎…お前、その目…」
苦しげに生き延びた経緯を語る小十郎。その姿は政宗以上に煤によって真っ黒に染まっているのだが、彼の顔半分がより酷く爛れている事に気づいた。
「ええ、危うく右目の名を返上せねばならぬところでした…」
現時点で視えていないのだろう。深く淀んだ左の眼窩に政宗は心を痛めた。不用意に触れる事も適わない。
「それでも、生きろと。生を…未来を託され、今、貴方様の前に戻って来られました」
忍たる佐助の得意とする術。トドメを刺される寸前の小十郎を分身と入れ替え、戦線を離脱させる事に成功した。
本当なら佐助も幸村の元へ馳せたかったろうに。己と同じように、主と共に未来を歩みたかったに違いない。
それでも成功率の高い手段を取り、命ごと囮に使った。
託され、生き残った小十郎はその忍の果敢さに敬意を示す。
「生きましょう………生きて、戦い続け、太平の世を我々で……政宗様…、」
「……ああ。それこそが死んでも護りきった奴らへの、一番の弔いだ」
背負う者として。残された者として。或いは奪った者として。
取り返しのつかない数々の選択の先がこの現実。だからこそ、この志は何としても果たさねば。
政宗はふらつく小十郎に肩を貸し、また歩き出す決意を固める。
のしかかる体重が随分と軽い事に安堵しながら。