11.お礼※
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
二人を居間に案内し、部屋から持ってきた膝掛け布団を背中に被りながら、今日の学園や放課後の活動の様子を聞く朱音の表情はとても熱心かつ楽しそうだ。
「それで、来週には器材や机と椅子の搬入が始まると、政宗も意気込んでおられた。片倉殿も計画表を元に各所へ念入りに確認して回っておられましたぞ」
「ウチらの店のレイアウトも、だいぶ野球部と揉めたもんねぇ。どっちもちっとも譲らないんだから。………あ、そうだ」
話しながらふと思い出した佐助が、懐から何かを取り出した。
それを見た朱音もすぐにわかり表情が一層輝いた。
「それって、もしかして…!」
「そう。サンプルが届いたから見せてやれって、あの生徒会長さんから」
とん、と手に置かれたのは小さなキャンドルだ。言わずもがな、多くの生徒が楽しみにしている後夜祭キャンドルナイトの一欠片だ。オレンジ色を帯びた乳白色がなんとも可愛らしい。
「これは一番小さいやつ。当日はもっと色んな大きさのキャンドルを置くんだって」
最も大きいのは腰元くらいまであるそうで、想像していた以上に大きな規模で行われるかもしれない。
実行には人手がいる、と先日言われていたが、確かに搬入搬出は大掛かりになりそうだ。
「ほんとは『6』個で持たせてやりたかったけど、副会長さんにバレそうだから1個で許してくれ、だってさ」
「ひ、秀吉さん…っ」
例の『ろくがいい』エピソードはやはり秀吉も覚えていたようで、朱音に羞恥が込み上げてくる。がそれ以上に嬉しさが勝り、笑顔が浮かべながら両手でキャンドルを包んだ。
「生徒会長さんも心配してたよ。元気になったら顔見せてあげると喜ぶかもね」
「はい、またご挨拶に行きます」
***
「……なぜいる」
「あ、お兄ちゃん帰ってきたよ。良かったねぇ」
「忠朝殿!お邪魔しており申す!」
買い物袋を抱えた忠朝が帰ってくると、当然居座っているサッカー部の二人へ怪訝そうな視線を寄越した。
「お二人はお見舞い品を持ってきてくださったんです。そのまま今日の学園での出来事を教えてもらってて…」
顔馴染みだろうが他人、それも異性を無警戒に家に入れるなと言いたそうな忠朝だが、朱音の表情を見るに、父や母と一緒に居る時と変わらないくらいの信頼を寄せているのがわかる。
どちらにせよ、きっと朱音が冗談めかして見舞い人が帰るのを寂しがりでもして、二人が気を利かせてくれたのだろう。
だがそれを差し置いてもこの現状は遠慮がなさすぎるだろう、と忠朝は眉間に皺を寄せる。
「いや〜それにしても二人暮らしの家にこたつがあるなんて、いいねぇ〜」
「も、申し訳ございませぬ。みかんまで頂戴してしまい…!」
寒がりな忠朝の熱烈な要望で入居と共に持ち込んだこたつに、サッカー部の二人もすっかり取り込まれている。
足元の熱が届いてほんのり暖かくなった机に突っ伏す佐助に、推定3個目のみかんの皮を剥いている幸村。めっちゃくつろいでる。
元々一人暮らしサイズのこたつに三人も足を突っ込んでいるので、みっちりしている。
「ところで兄上、家康くん達とのラップ出演の件はどうでしたか?」
「ばか!何故今……」
「え、なにそれ!詳しく教えて!」
先程は寝起きのタイミングで忠朝が帰ってきてきちんと話せなかったため今切り出したのが、よりにもよって割と諸悪の根源たるパパラッチがいる場で聞かれた。
じろり、と忠朝が朱音と佐助を睨むと、しまったと焦り出す朱音とは対照的に、佐助は面白がる類いの笑顔を向けてくる。
「しまったなぁ、忠朝サンが居ない時に聞かなきゃ〜……おっと、冗談だよ。記事にはしないから」
忠朝から佐助への信頼感はほぼ0に近いので絶妙な空気が流れる。
「あ、ああ、兄上!ほら、サッカー部の皆さんからほうとうの差し入れいただいているんですよ!前食べたいって兄上が言ってたやつですよ!チョコバットも沢山ありますよ。食べますか?」
「……食べる」
表情筋に反映される事は少ないが、忠朝もかなり感情に正直な性格をしている。
だからこそ妙に家康にも懐かれているのだろうし、心得ている朱音がもちもち食感やお菓子の話を振ると多少気は逸れたようで、素直に頷いてくれた。
気づけば幸村は4つめのみかんに手を伸ばしている。
こうしてなんだかんだ皆で寛ぎながら、穏やかに時間が過ぎていった。
小さなこたつに四人分の脚を突っ込むのは流石にきつかった。