10.結末 ※戦国パートのみ※※※
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煤に塗れ、冷たくなった身体を抱きかかえて、幸村は歩いていく。
元が草原であった事などわからなくなるほど、進む道は悉く焼き払われ、踏みしめる足元は土の肌が露見していた。
火薬と人が爛れる臭いが充満する道を、静かに歩き続けた。
間もなくして、辿り着いた。
腕の中で眠る大事な仲間と同じように、真っ黒で何の面影を残さない姿をしていたが、幸村は間違いないと確信する。
その背の高さに、手足の長さ、肩幅の広さに……燃え残った胴元の鎧と、顔の近くに落ちていた顔当ても確認出来た。
やはりそうだったのだ、と。
「朱音、いたぞ……佐助だ」
ここまで抱えて連れてきた少女を彼の傍らに横たわらせた。
鼓動を止めた二つの身体が幸村の瞳に写る。
ほんの数時間前まで毎日、当たり前のように交わしていた2人の声は聞こえて来ない。
「そなたは……佐助の姿を先に見ていたのであろうな……、それゆえ、に、」
本人がよく気にしていた癖毛の髪がある位置を撫でる仕草をした。空を切る感覚だけが幸村の手に返ってきた。
壊さぬように気をつけながら、朱音の右手と佐助の左手を取ると、両手で握りゆっくりと顔を埋めた。
「………、う、ぅ………ぐぅ…ッ…!すまぬ、すまぬ……朱音、佐助…ッ!」
『わたしもお役に立てるよう、幸村と皆を護れるよう、必ずや』
『なんだってやるさ。だから俺様を上手に使ってくれよ?』
「護られたくなどなかった!使いたくなど無かった!そなたらを、失ってまで…ッ!!」
だだっ広い焼け野原で、慰める者はいない。大将が簡単に泣くなと諌められる事も無い。
だからこそ、これが幸村に逃れようのない現実だと教える。
痛かっただろう、苦しかっただろう。それなのに、目の前にいるというのに、最期の表情すら見る事は叶わない。
一番傍にいたというのに、瞬く間に失った。
これが悔やまずにいられるか、嘆かずにいられるものか…!
たった一人の慟哭が静まり返った戦場に響き渡る。
「うぁああぁぁぁッ!ああ、ああぁぁぁあ……っ!」
皮肉にも感じる、この息苦しさが、目眩が、こぼれ続ける涙が、己の生が続いていることを証明している。
この生命こそが、二人が護った証だ。
もしも、二人に報いる術があるとしたら……。
「必ずや、立ち上がる……!今だけは、泣かせて、くれ…ッ!」
これが出来うる、一番の誓い。
いつまでも二人に寄り添っていたかったが、いよいよそうもいかない頃合だ。
松永軍の奇襲を受け、それでも生き延びた武田と伊達の兵士達がちらほらと本陣の方へ戻ってくる。
大将たるもの、俯いていても、うずくまっていてもいけない。
千の命はまだ潰えていない。武田に生ける民と兵を護るのが己に託された役目。
だから、代わりに。
幸村は首元の六文銭を外し、握らせた二人の手首を結ぶように通した。
黄泉の国の主よ。人の魂を司る神よ。
三途の川の渡し賃は一人につき六文必要で、無論これでは足りないのだが、どうか赦してもらえないだろうか。
想い合っていた二人なのだから。どうか一緒にいさせてやって欲しい。そう願いを込めながら最後にもう一度二人の手を両手で包み込んだ。