10.結末 ※戦国パートのみ※※※
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朱音の視界が激しく揺れた。
次の瞬間には、息苦しさと圧迫が首元に集中した。
松永が朱音の首を掴み上げていた。
成長の伴わなかった身体はあっさりと地面から離れた。
呼吸がままならず雷を生み出す事が出来ない。刀も手放してしまった。最早、ただの非力同然。
それでも藻掻く。両手で何とか松永の腕を掴み、拘束を逃れようと力もうとしている。
首を動かそうとする素振りに紛れて、朱音は視線を蒼紅へ向ける。
視線だけで告げる。『来るな。助けるな』と。
意図は直ぐに伝わった。だからこそ駆け出そうとする満身創痍の二人をギッと睨みつけた。特に幸村には来たら死んでも許さないといわんばかりに強めに視線を刺しておいた。
「さらばだ。閃光の娘よ……」
宝剣の切っ先が、火薬の匂いを伴って掴まれた首元へ迫ってくる。
確信できる、死の予感。今度こそは、死ぬ。
藻掻くのを止めた朱音の表情に笑顔が浮かんだ。
「待ってた」
***
「………待ってた」
人の焼ける臭いが充満した戦場。死体だって沢山転がっているはずだ。
だが、今となっては匂いもわからないし、視界はずっと暗いままだ。
それでも不思議と確信できた。
己の元へ朱音が来たのだと。
聞こえなくても名前を呼んで、どこかはわからないが身体に触れてくれた事もわかった。
小さな振動が伝わってくる。また泣いているのだろう。
それにしてもやってみるものである。
交戦の末、散々焼かれて、黒焦げになってお陀仏もいいところだったろうに、見様見真似で己の婆娑羅…影の中に少しだけ身体を沈めていたら、なんと虫の息が続いた。
(土佐の海で朱音がそうやって、お市さんに命繋ぎ止めてもらってたの見てたお陰だね)
そうして五感を失ってもまだ繋げたのだ。
死にかけのお姫様もたまには役に立つ、とふざけた思考が過ぎるものの、実際は口を開くだけでも一苦労だ。
余計なお喋りは、最早叶わないのだ。
「……旦那を、護って……」
最期なのに、己の代わりになれと。
影の為に使われろと、託すほか無かった。
ぎゅ、と優しく包まれる感覚。朱音ならきっと手でも握って頷いてくれたのだろう。
後はせめて、自分達を焼き払った仇の情報を一つでも多く伝えるくらいだ。
(俺様の願いを……叶えてもらうため、だけに…)
自分の声すら聞こえないものだから、きちんと話せてるかはわからない。
でも朱音は耳を傾け一生懸命聞いてくれている事が伝わってくる。
ほんと、お人好し。
伝えられる事は全て伝えた。もうこれで、いよいよ先に尽きるだけになった。朱音も直ぐに幸村達の元へ行かなくてはならない。
でも、もっと何かを与えてあげられたら、何かひとつでも多く伝えられたら……。もう少し、もうほんの少しだけ……。
何かが聞こえた。聞き取れなかったはずなのに、感覚が無くなってるはずの身体の痛みが消えたような心地がした。
「おれ、も……きっと、ほんとに……朱音が…」
頭で考える間もなく、そう絞り出していた。
そうしたらきっと朱音が何かして、機能しなくなった五感の全部が満たされたような気がした。
何したのさ、全く。
こっちが何もわかんないのを良い事に。
……でも、信じられる。あの子なら、必ず果たしてくれる。
だから思ったより、後悔してない。
遠ざかっていく灯(ともしび)のような光を見つめながら、佐助は静かに目を閉じた。