10.結末 ※戦国パートのみ※※※
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相手の動きが速い。速すぎて仕留める一刀が届かない。
彼の焦炎は範囲が広く、回避しようにも完全に避け切ることが出来ない。
朱音の戦装束がどんどん焦げていき、煤に染まっていく。空気に触れる地肌は何度も熱気に当てられ既に痛みに蝕まれている。自分では確認出来ないが炎症を起こしているのだろう。
視認し難い広範囲の熱にじんわり消耗させられていく。幸村と政宗もそうして少しずつ、着実に削られていったのだろう。
そして、きっと先程の彼。彼らも……。
予想通りではあるが、長期戦になればなるほど松永が有利だ。
絶え間ない斬り合いと能力の応酬の間に、漸く会話が織り成される。
「目的は、何ですか」
「竜の爪と守らずの楯…。一度は取り逃してしまったものでね」
「なぜ、今になって、この場に……!」
「いつだろうが歓迎されまい。故に愚問だな」
大義などない。戦の思惑の外の貪欲。
そんなものに、あれだけ時間をかけた備え達はあっさりと崩れ去ったのか。
力を持つ者の横暴が、培ってきた物を、折り重ねた思いを、命ごと容易く握り潰したというのか。
(さすけ……!こんな、事で……!)
抑制を止めた様々な感情が溢れ続ける。それに呼応し、朱雷の威力は増していく。
威力が増した事で攻撃範囲も広がるが、それも直ぐに察した松永は距離を取る事に集中し、遠隔の爆破攻撃主体に切り替えた。左手を鳴らす度に広範囲の爆発が生じる。
有効な一打を撃てぬまま、朱音の消耗は止まらない。
何とか距離を詰めたい。奴が距離を空けるより速く、あの左の指が弾かれるより先に…!
絶えず戦場に落としている稲妻の柱は今この場で初めて行使する、云わばアドリブだ。手探りの上に、威力を優先しているため制御がままならず、松永に当てることはおろか、特定の位置に誘導するのもまだ難しい。
こちらも少しずつダメージを与えてられているはずだが、松永の表情に大きな変化はない。変わらず薄ら笑いを浮かべ、こちらの出方をしっかり見ているようだ。
「護りの柱を解けば、もっと楽に戦えるだろうに…人に執着するか。やはり凡庸だな」
「………ッ」
やはりこの人物の価値観は己とは対極だ。決して交わらない。
松永が求める宝は護りの雷の先だ。解除できるはずが無い。
隙を探せ。真っ向な力と技では彼には及ばない事は痛いほど理解出来た。今出来ることは見逃さない事、だ。
(わたしが持たなくなる前に、一度だけで良い……ッ)
時間が限られている事は理解している。受け身でいては力尽きるのが先か。
素早く動く相手に同じ速さで対応していたがそれではキリがない。
ならば攻め手の動きは変えず、重さに徹した一撃を放てば、活路を開けるか?薩摩の海岸で幸村がそうして、朱音の武器を払ったように。
重い一撃を。朱雷を意識して刃へ集結させ、大きく踏み込んだ。
打ち払おうとした松永の宝剣に朱雷の激震が喰らいつく。体勢を崩しそうになった松永は遂に両手で宝剣を握り、鍔迫り合いの体勢に持ち込んだ。朱音は押し負けぬよう脚元に軸を据え、更に威力を出す。
「灼、け、ろ……!」
「……ッ」
バリバリバリ!と一際輝く稲妻が松永の身体に走り、ここに来て漸く表情を歪めたのがわかった。
ならばここだ、このまま、この威力で押し切る!
そう思った矢先に朱音の頭に痛みが走った。自らを纏う雷が降り掛かってきたような強い衝撃に、競り合っていた均衡が壊れた。
朱音が打ち伏せられただけならいい。
身体に纏っていた雷が散り、戦場に放ち続けていた朱雷も全て消えてしまった。
力の酷使の限界。この場にいる全員が察した。
松永の剣に払われ、地に伏した身体は持ち主の朱音の意思に逆らい酷く痙攣し、起き上がる事が出来ない。
松永が視線を朱音から移したのがわかった。視線の先には………幸村と政宗がいるはずだ。
(止まっている場合か!動け!!)
「が、ァアッ!!」
バチリ!と朱音の意思に強制的に電流が身体中を駆け巡り、倒れた姿勢から飛び上がるように松永の顎元目掛けて蹴り上げた。
動きを勘づかれたため半歩下がられ、脚は松永の顔を掠めるに留まった。飛び上がった勢いで体勢を立て直した朱音は腰を低く据え下から斬りかかった。
無意識にも雷を全身に通わせ強引に手足を動かしていたが、結果消耗が加速する。すぐに限界が訪れる。だからこそ一手でも多く、一瞬でも速く……!
「身を削ってでも喰らいつく。さながら風前の灯火だな、」
松永の宝剣が一閃を描き、朱音の手から日本刀が離れた。