9.着々と
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「うむ!美味いッ!!」
そうこうしている内に一番に試食した武田先生の賞賛する声が教室に響き渡った。
「お館様!ありがたき幸せッ!某の班は甲州味噌と赤味噌を混ぜ合わせて作り上げた物にございますゥ!」
「ひと手間加えたか……まろやかな塩気が天晴れよ、幸村!」
「はぃいいいいいっ!!」
敬愛する先生から褒められ、感極まった幸村の目元が潤んでいる。
至極のほうとうを目指す試食会として、班毎に味付けの調味料が異なり、最もほうとうに合う組み合わせを決めるのが本日の目標である。
「出来たのかい!?俺も食べる!食べる!」
「はいはい、風来坊はここで待ってて。俺様が二人分全部取ってくるから」
「すみません猿飛さん、よろしくお願いします……」
妙にご機嫌な慶次を放っておけばまた何か起こしかねない、と朱音はお目付け役を名乗り出て、代わりに佐助が動いてくれることになった。
「良かったねぇ、朱音。お忍び君が取ってきてくれるって!」
「良くないです」
数分と待たずに佐助が二人分のほうとうをお盆に乗せて戻ってきた。
今日は三種類のバリエーションを用意していたようで、色分けされた紙コップにそれぞれが少しずつ入っている。
「こっちから赤味噌、白味噌を甲州味噌に混ぜたやつで、これは変わり種の醤油味だよ。ご試食どうぞ」
「ありがとうございます」
「いただきまーす!」
少量ずつ盛られているため火傷の心配なく口に含む。丁度良い温かさとほうとう麺のもちもちした食感が広がって、朱音も慶次も感激しながら味わっている。授業後の夕方に食べるものはどうしてこうも美味しいのだろう。
この三候補の中から一つ選ばなければならないのだが、どれも美味しくて敢えて選ぶにしても迷ってしまう。
周りを見遣ると他のサッカー部員達もわいわい食べているが、一番を決めるのは悩んでいるようだ。
少しして、政宗と小十郎が朱音と慶次の元へやって来た。
「小十郎の野菜はどうだ?」
「美味しいです!とても!」
「めっちゃうまいよ片倉さん!校庭を改造して作ったとは思えないくらいよく出来てるよねぇ!」
「元は校庭とは言え、本物の畑の土を持ち込んで作ってんだ。味は保証するぜ」
朱音達の元に来る前にあちこちの班に顔を出しては野菜の出来を褒められてきたようで、小十郎の表情は自信に満ち溢れている。
普段から野球部の面々には育てた野菜を振舞って好評を得ているが、今回の件で学園の様々な生徒達からもフィードバックを得られて充実しているようだ。
「やっぱ俺としては、もう少し大きめに切ってあった方が野菜そのものの味が堪能出来ていいと思うんだよな」
「それもいいですね。これだけ美味しいですし…!」
「だってよ。よかったな小十郎」
「はい。それで、お前たちは何に投票するつもりだ?」
「わたしは……白味噌を混ぜた物でしょうか。南瓜ともよく合っていて美味しいです」
「俺は赤……ううーん、でも醤油も意外性があって美味かった!」
朱音と慶次がそれぞれ答えると、野球部の二人はやはりと言った様子で顔を見合わせて頷いた。
やがて幸村の声が場を仕切り、正式に投票する時間を迎えた。
民主主義の方法に乗っ取り一人一種類ずつ、最も美味しかった味を挙げていくのだが、上位二つの票が拮抗してしまった。
やはり米と麦を麹で発酵させた甲州味噌が鉄板。それに合わせるのは白味噌か赤味噌か。二つがピッタリ同じ票になってしまった。
改めて決選投票もしたが、それでも半々に割れてしまっている。
「むむむ、なんとする…ッ!」
当日使える器具の関係で何としても一種類に絞らねばならない。幸村が唸っていると佐助が手を挙げた。
「味はどっちも同じくらい美味しいって事はわかったよね。じゃあ視点を変えて考えてみる?」
「視点?」
「そ、学園祭に来るお客さん達にとってウケがいいのはどっちか?とか」
教室中から感嘆の声が上がった。最終的な売上に関わってくるのはやはり顧客の需要だ。
その為には年齢層や男女比率等を把握すると効果的だ。来校するのはまず生徒の保護者、地域の住民に、既に冬休みに入っている他校の生徒も挙げられる。
「あとはそうだな……ウチら、野外での提供だろ?寒空の下で食べたいな〜と思う味は…?」
佐助の言葉に教室の中の迷いが晴れていくのがわかった。
再度投票を行うと、白味噌入りに大半の票が行き学祭に提供する風味が決まった。ワッと部員が盛り上がる中、暫く考えて込んでいたらしい小十郎が提案をした。
「野外。寒さ、な………身体を温める生姜も合いそうだが、どうだ?」
「おお、片倉殿!それは妙案にござる!是非、生姜入りも試しとうござる!」
「ただ俺の畑には生姜はねぇから、今回は市販品になるな………来年以降に引き継ぐか…、」
「Hey.その引き継ぎってまさか俺か…?」
提案を嬉々として聞く幸村をそっちのけで、小十郎はまた畑拡張計画に意識が行ってしまったようだ。
「いやぁ〜!すごかったねぇ、お忍び君の鶴の一声!」
「買い手に焦点を当てた発言、流石ですね」
「これは新聞部での経験が役に立ったかな。読み手の需要を汲んだ題材選び、ってね」
情報を元に相手にとって有益な物を見定める。高校生とは思えない視野の広さに朱音は感心した。受験生というのに部活も掛け持ちし、本当に器用な人なのだろう。
憧憬を抱く視線で佐助を見つめる朱音。に気づいて、慶次はお邪魔しないように必死に口元を隠していたという。