9.着々と
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「おつかれさまです!」
力みすぎたか、少し上擦ってしまった。けれど届きはしたようで、割り込んできた女生徒の声に一同は一斉に振り向いた。
ドリリリリリ!と電動カッターやドリルの音が絶えず鳴っていたが、朱音が声を掛けた事で一旦スイッチを切り、作業を止めてくれた。
「おう!アンタか、運営の!」
人垣の中から姿を現したのは銀髪で左目に眼帯をした不良男児…否、男子生徒だ。
とうに12月に入っているというのに、前開きの長ランの下は白タンクトップのみ着用というパッと見不良にしか見えない彼だが、学祭の準備を手伝ってくれている有志軍団のリーダーだ。
「こちら差し入れです。家庭科部のお菓子の試作品をまたいただきましたので、お裾分けです」
「毎年即完売するってぇのに、こんなに沢山いいのか ?ありがたく頂戴するぜ!野郎共ッ!一旦休憩だァ!」
「「「了解したぜ!アニキー!!」」」
雄々しいユニゾンがグラウンドの片隅に響き渡った。
先日の演劇部で聴いた荘厳なアンサンブルとはまた違った迫力に思わず気圧されている内に、押し寄せて来た威勢の良い男子生徒達に朱音が持ち込んだ紙袋の中からお菓子が次々と取り出されていく。
俺の!俺が先だ!ずりぃ!とわちゃわちゃする『野郎共』に眼帯男児が一喝した。
「オラァ!喧嘩すんじゃねぇ!全員ありつけるよう仲良く分けっこしろぃ!」
30名は居るであろう野郎共は大人しくその声に従い、落ち着いて1人ずつ渡っているか確認しだした。
荒々しい見た目に反して、中々統率の取れたグループだ。
「わざわざ有難うな、原の……名前は朱音だったか?」
「そうです。それにお礼を言うのはこちらです。ご厚意でアーチや看板を製作していただいているのですから…!」
「いいんだよ、俺達の展示のついでだ。改めて俺が代表の長曾我部元親だ!」
『長曾我部軍団のカラクリ大展覧会~物販有るぜ!~』
彼らこと長曾我部一行の企画展内容を朱音は思い出す。何でも廃棄資材を再利用し、様々なオブジェの製作並びに展示をするという物だ。廃材の加工がメインということで、運営委員だけでは手が回らない造形物の製作も引き受けてくれたのだ。
『あいつらの腕はホンモノだから、是非役立ててやってほしい』
そんな依頼を受けてダメ元で頼んでみたところ、快諾され現在に至る。
「それ言ってきたの、生徒指導の『オヤジ』だろ」
「そうです。穏やかそうなおじさまでした」
「俺らが入学した頃から世話になっててな。指導役ってぇのに妙に気が合うんだ。最近は保育園の娘の尻に敷かれてるみてぇだぞ」
教師とも近況を聞くほど親しい間柄のようだ。見た目からは想像が及ばないなと、朱音は元親の話に興味深く耳を傾けている。
そして良かったら進捗報告として見てってくれぃ、と製作途中の手乗りサイズから屋外展示しか出来ないであろう超巨大カラクリ(予定)のパーツを見せて貰った。各パーツを作り上げてから組み立てて完成させるようだ。一部は販売するつもりで作っているため、朱音の予想より多く生産するつもりらしい。
「この非売品・超特大サイズ暁丸が出来たら圧巻だぜ!企画店グランプリは俺らがいただくから楽しみにしてろよ!」
「大注目を浴びそうです、頑張ってくださいね」
「……ところでよ、今年は後夜祭でキャンドルナイトやるんだろ?校庭に展示するこの特大暁丸にもキャンドルいっぱい乗せていいぜ!」
「え…っ?は、はい…!」
きっと激映えだぜ〜!と目を輝かす元親に、朱音もイメージが及ばないながらも頷いておいた。