9.着々と
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徳川派、石田派、そして武田と伊達による同盟派。
拮抗する三勢力の決戦は関ヶ原の地が指定された。
これでいよいよ乱世の最終決戦になるのだろうか。そうであるよう大勢が明日を祈り、死者を偲ぶ。
あと数日もすれば上田を発ち、西方へ行軍する。できる備えは全て整えておきたい。武具、物資、兵糧……そして戦略だ。
さまざな陣形の資料達と忍隊が調査してきた関ヶ原の地形に、そこまでの道を記した大きな地図を机上に広げて、幸村と朱音がそれらと睨み合っている。
「あの二人が机に齧り付いているとはな…」
最近ではすっかり定着した二人の『お勉強』スタイルだが、先日から上田城に身を寄せる伊達軍の面々にとっては珍しい光景だ。
「関ヶ原……とても広く、開けた地形なのですね」
「うむ。日ノ本の主立つ戦力が揃うともなればこの地は必定。敵方の陣形をいち早く把握し対応する必要があるな」
「ならば先んじて先んじて辿り着く事……目立たぬよう、小規模の隊がよさそうですね。それと見晴らしの良い高所も見つけられれば、」
「佐助、佐助!来い!」
「はいは〜い」
これもお決まりの展開だ。
話し込む二人からより具体的な情報や別視点の意見が欲しい時は必ず佐助が招集される。
3人でやいのやいの言葉を交わし、資料を引っ張り出したりするなか、佐助の姿は随分と穏やかに見える。
「……猿飛は朱音と仲直りできたようですな」
「フッ、仲直りな。真田も随分と吹っ切れた面になったな」
「何じろじろ見てるのさ。暇なら双竜のお二人さんもこっち来て戦略立てるの手伝ってよ」
何やら値踏みするかのような視線に気づいた佐助が笑顔で呼びかけたが幸村が制した。
「まだだ佐助!まずは我らの意見を纏めた後、政宗殿らに是非を問わねば!それが一度は不覚を取った俺の務めだ!」
今日も今日とて暑苦しい熱意だが、確かに筋は通っている。本当の意味で対等たるべく幸村自身はまだまだ知識と経験を必要としている。
やれやれ、と形だけ困った仕草をして見せた政宗は満更でもなさそうだ。傍らの小十郎も同じような面持ちだ。
「道中の地図の追加出来ましたよ〜。あとこれは越後からの差し入れの小豆を使ったお饅頭です」
軍議室に入ってきたのは何処かで見覚えのある金髪の忍装束を纏った少年だ。
元より保管されている地図だけでなく、忍隊の人間がそれぞれ描いた内容を擦り合わせて、一層正確に作り上げた地図がまたひとつ持ち込まれた。
「おお!かたじけない小助!身体は使っていないはずだが妙に腹が空いてな!」
「ちゃんと頭を使えてるって事だね」
「このお饅頭、もしかして小助が作ってくださったのですか?」
「息抜きがてら空き時間にね。ひかりさん直伝だよ」
親しい甲斐の女中の名前を聞くと、朱音の表情が一際明るくなった。身分や礼節に厳しい彼女が遠慮しないようにと、幸村が一番に饅頭を取ると朱音に手渡した。
「おいしい!です!」
「ふふん、いくらでも食べられるようにちょっとお塩多めに入れてあるよ」
「なんと、これなら食べ飽きぬな…!見事だ小助!政宗殿と片倉殿も召し上がられよ!」
「Ha!いいのか忍?この俺は料理にはちっとばかしうるさいぜ」
「む、中々美味でございますぞ、政宗様。この忍、侮れませぬ」
「早えーよ小十郎。お前も腹減ってたのか」
食通メンバーにより、一気に賑やかになった。大戦を前にして緊張感に包まれてばかりでは参ってしまう。自然と訪れた憩いの時間に一同の表情は穏やかだ。
「ほら、忍隊隊長さんも。どうぞです」
「はいはい、ありがたく。……おいしいね」
手のひらに乗せて差し出された小さな饅頭。
この場の面々の中で一番最後に佐助は口に放り込んだ。