8.願い
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
上の学年の教室に行くには本来大義名分が要る。
朱音も先日追い回される兄に預けられた鞄を届けに行くために赴いた程度だった。そして今回は、
「佐助、おるか!来い!」
幸村に連れられて目的のクラスに到着した。上級生だらけの空間にも臆する事無く幸村が声を張り上げると、目的の人物がすぐに姿を見せた。
「あれ、真田の旦那?今日はてっきり学食レースに参加してると思ったのに……ってもう持ってる!?」
噂の戦利品を誇らしげに掲げる幸村に佐助は驚愕し、周りの注目もバッチリ集めている。
「お前も新聞部の『食れぽ』すべく食べねばならぬだろう!皆でしぇあするぞ!」
皆でシェア、と聞き佐助と朱音の目が合った。それで態々3段の雪だるまパンを選んだのだと思い至った。
「わたしまで良いのですか…?」
「うむ、そなたには礼がしたいと思っていたのだ!」
「じゃあ、いつも通り新聞部の部室へ行きますか」
***
「へぇ、じゃあ一番乗りは誰だったの?」
「小助と金吾殿だ!」
「ああ〜、この手のは毎回絶対確保するもんね、あのコンビ」
「家庭科部の1年生達だったのですね」
先日家庭科室で出会った二人の姿を朱音は思い浮かべる。
あの二人の食べ物への探究心を思えば納得の結果だ。
「お前のクラスは直前まで体育だったがゆえ、確保は難しいだろうと思ってな!政宗殿も手に入れておられたゆえ、片倉殿と共に召し上がるのだろう」
佐助が所属する新聞部の部室を拝借し、3人で机を寄せあった中心には雪だるまパンが置かれている。
獲得までの道のりを語る幸村は楽しそうだ。3人が自分の昼食を食べ終えると、幸村が3つに連なるパンを手でちぎって差し出した。
「受け取ってくだされ、朱音殿」
「あの、さっき言ってたお礼というのは…?」
「無論、企画店の件にござる!はじめに佐助に提案したのはそなたであったと!」
野球部との合同出店が決まったのは朱音の一言がきっかけであった。
佐助と小十郎の畑を見学した時に出た何気ない感想のような言葉だったが、実際に佐助が幸村と小十郎へ提案すると、実現に向けて本格的に動きだし、今も準備を進めている。
「2ヶ月近く経ってしまったが、改めて礼がしたかったのだ。ライバルたる政宗殿と手を取り、共に準備を進めて行くのも中々どうして面白うござる!」
「ではこのパンにかける『お願い事』とは…」
「無論!我らが合同企画店……否、学園祭の成功だ!」
運営委員としても活動する2人に寄せた願掛けを幸村は高らかに宣言する。
それを聞いた朱音は感動しているようで、3等分した一つを大事そうに両手で抱えている。
「お前もだぞ、佐助!お前がいてこそ、何事にも全力で戦う事ができる!」
「はいはい、こちらこそありがとね、旦那」
頬杖をつきながら緩く笑ってみせる佐助も、心做しか表情以上に喜んでいるように見える。
三等分にすれば2、3口で食べきれてしまう小さなパンだったが大事に一口齧った。
「これ、カスタード入ってます!」
「こっちはチョコクリームだったよ」
「俺のは苺だ!」
中に入ってるクリームも別々の味だったようで咀嚼しながら感想を言い合う事が出来た。
転校してまた一つ新しいイベントを経験した朱音は楽しそうに笑顔を浮かべて食べている。それにつられてか、単純にパンが美味しいのか幸村も溢れんばかりの笑顔で話している。2人を見守る佐助は安堵感に包まれながら残りを一気に食べきった。
「粋なプレゼントだね、旦那。ありがとな」
***
(おまけ。一番乗りコンビ)
「貴重な限定品だから、味わって食べないとね!」
「だね。この雪だるま、2段のは半分こするとして、3段の方は分けると1個余る……金吾君、1個多く食べる?」
「いいの!?ありがとう小助君!……あ、でも、せっかくだから………これは天海先生にあげようかな!」
「おお、相変わらずの仲良し。いいんじゃない?」
「小助君も一緒に届けに行かない?」
「保健室は遠慮するわ…、よろしく伝えといて」
「もう〜、『死神』なんて呼ばれてるみたいだけど、天海先生は本当は怖い人じゃないんだよ〜」
「そんな事言ってるの金吾君くらいだよ…。いってらっしゃい」
味わうのと天海先生に届けに行く事に夢中になって、二人揃ってお願いするのを忘れちゃったそうだ。