こがらしの記憶
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やかましくて、元気。そして色んな意味でおかしなおねーさんは今日もお寝坊だ。
毎回おれが先に起きてる。こんな山奥だというのに警戒心は起きない図太さだ。羨ましいとは思わないけど。
「……あったかいけどさ」
ぽつりとつぶやいた独り言はもちろん深く眠るおねーさんには届かなかった。ちょっとだけ危ない橋を渡りきった気分になって一息ついた。でも起きたというのにいつまでも寝そべっているわけにもいかない。
「ちょっと、おねーさん!いい加減起きて!おれが動けないッ!」
おれの背中までしっかり回されていた彼女の腕を叩くと、間抜けな呻き声を上げて目が開かれた。
「……おはようございます、ちびちゃん」
「はいおはよう。はやくおれを離して」
「あら、どうしてこんな近くにちびちゃんが…」
「おれが離れてもあんたが寝てる間にいつもこっちまで来てるんだよ!」
「肌寒いせいでしょうかね?」
悪びれもせず(寝起きだからかな)おねーさんはおれと一緒にゆっくり身体を起こした。ものの、すぐにまたおれの方へなだれ込んできた。そのままおれの首に両腕を回してぴったり動かなくなった。
「ばっ…!な、なにしてるの!寝ぼけるのもいい加減に…!」
「ごめんね、なんだか今日は、まだ、眠くて…」
「はぁ!?」
無防備におれに身体を預けてくるのは寝ぼけとおれへの信頼の証。どうしてか早鐘を打つおれの鼓動。ああ、もう、この、自由人め!
状況理解が追い付かず取り乱しているおれだがとりあえず落ち着こうとギュッと目を閉じた。その瞬間、不意に、
おねーさんの身体の重さが、消えた。
ハッとして目を開けたら重さは戻ってきていて、変わらずおねーさんはおれにもたれたまま寝息を立てていた。
「……な、なに、…起きてよ、おねーさん」
そっと引き剥がし、まだ小さなおれの膝の上に頭を横たえたがおねーさんは目を覚まさない。不思議と目を覚まさない。
なんだ、何が、起きてるの?
「――――――おねーさんたら!!」
思わず大声を出したおれの声に反応して、飛び起きる…わけではなく、ゆっくりと目を開けたおねーさんに違和感があった。
「……あら、おはようございます、ちびちゃん」
「………、」
「どうしたのです?」
今、挨拶したばかりだろ。なんで、また、今日初めて起きたみたいに。
な、なんで、なんで。
さっきまでの温かさの余韻は消えて、よくわからない焦りが全身を支配して、言葉が返せなくなった。
おねーさん自身も何が起きたかわかっていないようで、でもおれは何かに焦っていることだけは伝わって来たのか、気遣うようにこちらを覗き込んでくる。
さっきの一瞬消えた感じがしたのは一体なんだったんだろう。わからない。
ねぇ、おねーさんは、まだ一緒に居てくれるはずだよね。だって自分の事何もわからないんでしょ?行く場所なんてないんでしょ?
そうだ、この人は、この浮世離れした雰囲気を纏うこの人は結局何者なのだ。本当にこの世にいる人なのか?
違う、こんなこと疑いたいわけじゃない。もしもそうだとしても。そうだとしても…!
「………本当に、どうしたの?わたし、何かできませんか?」
「……か、勝手、に……」
今の表情を見られたくないのもあって初めておれからおねーさんに抱き着いた。当然面食らったようで唖然とした表情を浮かべていたがすぐに抱きしめ返してくれた。
「かってに、…なんでしょう?」
「……何もない、何もないよ」
勝手にいなくならないでよ。
嫌な予感が消えないまま、そう一心に想っていた。
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