7.すれ違いと、想いと
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雨女、晴れ男の如く。
もしかしたらこうも間が悪いのは、どちらかにそんな特性があるのかもしれない。
「朱音ちゃああああ――――んッ!!」
もやもやしている内に辿り着いてしまったが、現場は散々だった。
屋外鍛錬場のあちこちの壁や木々の歪な黒コゲを目にした佐助は、そのコゲの中心に倒れ伏している人物を見遣った。
倒れた木の棒のように真っ直ぐ伸びている彼女は受け身を取る間もなく気絶したようだ。
「説明してくれる?ナニコレ?」
意識のない朱音に駆け寄った小助は泣きそうな表情で膝を貸している。
「朱音ちゃんの婆沙羅の力が…暴走して…」
例を見ず遅れて発動した雷の婆沙羅。それも御者たる朱音の感情に呼応して不安定に力を発揮されるという、当初は危険な代物であった。
それゆえ制御訓練をしているとは聞き及んでいたが、まさかここまでの惨状とは。
「違げーよ!これまではちゃんと落ち着いて使えるようになってたんだ!今日から少し威力を強くしてみるって言って…!」
木炭ほどではないが、真っ黒になってしまった朱音を小助は自らも煤塗れになる事を厭わず抱きしめる。流石は元主従関係である。
元主が駄目な子扱いされているのではないかと小助は反論してくるが、事情を聞いた佐助は確かにと頷いた。元々大概はそつなくこなせる印象だし、小助の言っていた通り、難易度を上げようとした初回故に失敗したのだろう。
「いつも練習してたんだ、」
「怪我が治ってから毎日やってるって。幸村様と勉強してる傍らでね」
不器用なのは精神性の方だ。望んでしているとはいえ、本当に一度決めたら努力を惜しまずどんどん突き詰めていこうとしてしまう。
佐助もとうに承知している気性とはいえ、無様に気絶してる姿にはつい大きめのため息が零れた。
「暫くついててやれよ、佐助」
「暫くって?」
「朱音ちゃんが起きるまで」
「それってどれくらい?」
「さぁ……」
「俺様、そろそろ出なきゃいけないんだけど」
「じゃあ手当する役、譲ってやる」
小助は渋々といった様子で朱音を佐助に抱えさせた。
佐助がここに来た理由は何も言ってないはずだが、小助も大方の事情は察しているのだろう。普段に比べると少ない口数で朱音を佐助に託した。
「何?それともアレコレ聞かれてぇの?」
「い~え、謹んで介抱させていただきます」
*
「って言ってもなぁ」
正直意識が無い状態では出来る事に限りがある。
着替えさせるほど重い怪我もないだろうし、外側についた煤らしきものを払うくらいしかやることがない。
そういえば先日は朱音が佐助の身体や装束に付着した血痕を落とそうと拭っていた事を思い出した。今日は立場が逆だ。
また上田城戦で殺気に呑まれた佐助を、朱音は拒絶されても追いかけてきて、朱音が初めて人を殺めた時は佐助が放っておけず追いかけた事もあった。
まるで同じ。互いに同じ事をしてしまっているんだと思わず失笑した。
「さぁそろそろ起きねぇと、ほんとに置いてっちまうぜ」
つん、と眠る朱音の頬をつつくが目を覚ます気配はない。力の反動が思ったより大きいのかもしれない。
これまでのやり取りと又聞きした様子からして、きっと朱音はまた佐助と話せずに別れる事を嫌がるのだろう。
置いて行かれる側の気持ちは十分に知っている。そして今は己が置いていく側だ。
(もしあの時………おねーさんも、置いていきたくないと思っていたのなら、)
あの日々の彼女を恨んだ事はない。別れる瞬間の表情が忘れられなかったからだ。
ただそれでも幼い自分にとっては寂しくて、悲しくて。色んな後悔がずっと根を張っている。
横たえている身体に腕を伸ばすが、佐助はピタリと動きを止めた。
「……ちゃんと戻ってくるからね」
抱きしめようとした腕は、朱音の頭を撫でるに留まった。