こがらしの記憶
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「お水汲みに行ってきますね」
昨日一緒に散歩に行ったおかげで行動範囲のある程度の地理を把握したらしいおねーさんは積極的に日常の雑用をこなしてくれる。
「はいはい、足元滑らせないようにね」
「勿論です!」
時に皮肉の一つも皮肉と認識しないこの人は根っからの『いい人』なのだろう。指摘したらまた「からかわれるのは慣れているから」だのよくわからない言い訳されるかもしれないけど。
複数の竹筒を抱えて颯爽と駆けていくおねーさん。ふわふわしてるとこもあるけど、一度これだと決めたらしっかりこなしてみせる。そんな謎の人だ。記憶もないとか言ってるけど、ある程度の感覚や懐かしいと思う気持ちはあるらしい。だからその内記憶も思い出すじゃないかな。
たぶんあの人、おれに嘘ついてない。全部素で接してくれてる。だから鈍い時もあるんだろうけど、さして気にしていない自分にも驚いている。
ぼやぼや考えつつも両の手でそれぞれ石を持ってぶつけ合って火おこしに専念するおれ。ちゃんと考える片手間で動いてます。どう、しっかりしてるでしょ。だてに山奥でひとり暮らししてないよ。起こした火が安定して燃えるようになった頃におねーさんが帰ってきた。
「石焼きいも~おいも~」
「火を起こす度に変なの歌わないの」
「だって、この匂いだとお芋さん思い出すでしょう?」
「なんで芋限定なの…」
うーん、やっぱりふわふわしてるこの人。おれがしっかりしないとな。本人に言ったって、そんなことないですぅ、としか言わないからね。自覚して無いからね。
ともあれこんな山奥にお芋なんてあるはずがない。
「どんぐりを煮ます」
「どんぐりって、食べられるのですか!?」
堂々と世間知らずを晒すおねーさんいもいい加減慣れてきた。びっくりする反応を余所におれは拾い物の鉄鍋を引っ張り出した。
先程おねーさんに汲んできてもらった水を入れてどんぐりを中にいれて火にかける。
「どれくらい煮るのですか?」
「すごくいっぱい。ちゃんと煮ないと、このあたりのどんぐりは渋い味だから」
「物知りですねぇ」
「あんたが知らなさすぎなの」
そしておねーさんもおれに嫌味言われることにもすっかり慣れてしまったようで、しゃがんだ膝に乗せた肘で両頬を押さえてニコニコ笑っている。そんな姿にどこか安心してしまう自分は一体何なのだろうか。
「じゃあおねーさんは、何なら知ってるの?」
「う―――ん、…あ!どんぐりの歌知ってますよ!どんぐりころころ、どんぐりこ~って!」
「ねぇ、本当に大丈夫?」
訂正。やっぱりこの人と話してると疲れる。
「な、なぜそんなにも冷たい目を向けるの!?確かに歌はあまり自信ありませんけども…!」
「もう好きにしなよ。我が道貫いてください」
「そ、そんな!一緒に来てください!」
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