6.成長するために
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……そういう事らしいので、お願いできますか?かすがさん」
「断じて断る」
おずおずと尋ねてみたが、やはりOKは貰えなかった。予想出来ていたとはいえ、伝言役の朱音は狼狽える。
「間接的に頼めば応じるとでも思ったのか。相変わらずな連中だな」
「すみません…」
「お前に怒っているのではない。運営委員を使って、言う事きかせようとしてくる演劇部の連中に怒っているんだ。学園の人間関係にまだ疎いお前なら引き受けてくれると踏んだんだろう」
運営部の教室の窓際で腕を組むかすがは不機嫌を顕にしている。
「では改めて新体操部との共同演劇はお断りするという旨を演劇部に伝えてきますね」
「待て、この際だから私からハッキリ言い渡す。一緒に行くぞ」
それにあそこは本当に隙あらばアレコレ勧誘してくるから私が守ってやる、とかすがに腕を引かれながら朱音は演劇部の元へ向かうことになった。
*
もっぱらの演劇部の活動場所である第三体育館の扉を開けた途端、歌声に包まれた。
想定以上の数の部員と思わしき面々の合唱に朱音は面食らう。それも吹奏楽の伴奏までついているせいで過剰に勢いが伝わってくる。
「な、なんだこれは…!?」
朱音より事情に詳しいと思われたかすがまで驚いた表情をしている。
どういう事か疑問に思ったが、体育館への訪問者に気づいた演劇部員が演奏を止め声を掛けてきた。
「ああ!やっと来たのですねゲイシャガール!貴女方のダンスも合わされば企画店グランプリは我・々・の・物!」
男子高生にしては少し低めの身長をした金髪の少年がくるくる回りながら二人の方へ近づいてくる。
かすがの目の前で動きを止め、跪くように手を差し伸べた少年は自信に満ちた笑みを浮かべている。対するかすがは至極嫌そうに、少々引いているようなリアクションだ。
「勘違いするな、直々に断りに来たんだ!そもそもしつこすぎるからお前たちは新体操部に出禁喰らっているくせに、何故承諾すると思ったんだ!」
「な!?僕たちのこの華麗な演奏を聴いてついに改心した訳ではないのですか!」
「違う!人を使ってまで干渉してくるお前たちをハッキリ断る為だッ!」
ギャンギャン言い合いを始めてしまったかすがと金髪の少年にどう接したものかと朱音は狼狽えていた所に、一人の男性が近づいてきた。
朱音もその男性に覚えがあった。それもそのはずで、
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。やはり手前の判断であなたにお願いすべきではありませんでした」
「い、いいえ!」
教員…とも少し事情が違いそうな髭を生やした男性に頭を下げられ朱音は慌てて首を振る。そう、このおじさんにかすがを誘ってくれと伝言を頼まれていたのだ。
警備服越しにもわかる逞しいガタイにそぐわず、とても丁寧な物腰でお願いされたこともあり引き受けてしまったのだが、その時もそして今も申し訳なさそうな雰囲気を醸し出している。
「お前のせいです宗茂!」
金髪の少年が大きなおじさんを叱責した。おじさんの方は言い返す事もせず呻きながら俯いている。学園内としては奇妙な光景だが、親戚のおじさんに対して調子に乗…甘える甥っ子みたいな関係性なのかもと思えば朱音も少し腑に落ちた。
「しかしまぁ、今回は見逃してやりましょう。そう!何を隠そう我々演劇部はサンデーの導きの元、今年は吹奏楽の生演奏にて劇を披露できるのですからっ」
少年が楽器隊へ手を向けるととても整ったアンサンブル音が聞こえてきた。
それを指揮するのは真ん中に立っている眼鏡を掛けた男子生徒のようだ。彼は少年の方に振り向くと不気味なくらい眩しい笑顔を向けた。
「ところで先程からそこにいるお前は何者です?」
吹奏楽部の方へ視線を奪われていると金髪の少年が朱音に話しかけてきた。
余計な勧誘諸々はさせまいとかすがは素早く間に入って立ち塞がった。
「学祭運営委員の原です…」
「運営?それなら丁度良いですね。企画書の再提出を今……宗茂!」
「ははっ!宗麟様、こちらに」
素早く傅いたおじさんが少年こと宗麟に企画書を差し出した。ピッとその用紙を受け取ると宗麟は朱音に手渡した。
「受け取りなさい生徒会の雑務要員。そして運営部は我々の公演を大々的に宣伝するのです!学内外へポスターを貼りまくり、公演の周知を徹底なさい!」
「え?は、はい、ではそのポスターのデザインも提出していただけますか?」
「宗茂!」
「むゥ!?そ、宗麟様、ポスターの話は手前も今聞いたばかりで……」
困り果てた様子で宗茂おじさんが右往左往しているが、宗麟はお構い無しに叱咤する。
周りの反応も見るにこの2人は普段からこんな調子なのだろう。それでもちょっと宗茂が不憫に思えなくもない。
印刷物の期限はまだ先である為、後日で良い事を告げると、朱音はかすがに連れられ第三体育館を後にした。
「そうです、あなたも演劇部に入りませんか?運営部の人間を取り込めば広報の手回しやこっそり予算アップも……!」
「聞くな朱音!さっさと行くぞ!」