6.成長するために
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防衛のいろは。
状況に迫られ漸くお武将らしい勉強を始められた朱音だが、やはり現実とは常に嚙み合わずだ。
それでも喉元である城に迫られる前に食い止められるのならば、それに越した事はない。
「これを乗り切ったら、こうした奇襲や行軍の戦法も学びたい…」
行軍する赤備えは幸村が率いる武田軍。
近江、美濃の方角から敵の行軍を確認したと報告が届き、すぐさま武田勢は迎撃すべく軍を進めている。現在同盟関係にある伊達軍、不可侵協定を結んだ越後にも状況を伝える遣いは送ったが、会敵のタイミングの予測からして援軍を待つ余裕はない。
*
「進軍して来ているのは石田方に組する2、3の連合国。石田軍の主要の将は見当たらないようだけど油断は出来ないよ」
ガサリと佐助が広げたのは、信濃周辺の地形が記されている地図だ。敵方が迫る西南の方角に注目し、どう迎え討つか検討せねばならない。侵攻の報告を聞いて直ぐに上田城を発ち、敵の迫る方角へ進行する山道の最中、休憩の間に具体的な戦法を定めるべく幸村と朱音は地図を覗き込んだ。
「敵の進路を確実に絞りたい……だが、敵方は我らの裏をかいて攻め入りたいはず……」
「事前に罠を張って進軍を妨げる事は不可能な進行速度、あるいは規模なのですね」
確実に布陣を強いて対抗した方が良い。そう判断したから佐助は一旦上田城まで戻り対応を仰いだのだろう。朱音の言葉に幸村は納得した様子で頷いた。
「ならば尚の事、敵の意図を掻い潜り囲えるよう動きたい。待ち伏せるならば……」
「この辺りから二手に別れて侵攻される可能性は?」
「……有り得るかな。片方の道は傾斜が大きくて本来通行には向いていないけど奇襲には適してるね」
少し前まで真っ直ぐ斬り進むか、目の前の人間を庇うだけで精一杯だったはずの2人だが、今となっては地図に食らいついて敵形の動きを読み取ろうとあちこちを指しなぞっている。
「こちらの手勢は少ない、だからこそ敵に分散される前に一箇所で叩くべきか」
「それならばもっと、前……まだ敵方が警戒しない地点…」
「この山地の辺りなら。今のウチらの足でもちょっと急げば間に合うよ。森が広がってるから軍勢で潜む事も出来る。夜は霧が出るし、足場はあまり良くないけどね」
「武田の突破力ならば問題ない!その霧も逆手に取り敵の目を避けて進めよう。その為にはお前達、忍隊の案内が肝要になるが……出来るか?」
「勿論ですとも。武田の大将。決まりだね」
緊張した面持ちではあるものの、幸村の判断が現状打てる手として最善であり、また武田の兵の特色を考慮したものだ。あとは作戦の通り接敵できるかだ。
先日の落ち込んでいた様子から各日に持ち直し、成長の姿すら佐助にも十分に伺う事が出来た。
時折意見を求められるものの、真剣に話し込む二人は確かに先を目指す姿勢が感じられる。そんな真っ直ぐな瞳が佐助の印象に残った
*
場と時を読み立てた戦術は見事に嵌った。予想通りの経路で進軍してきた敵方の動きを手早く封じ降伏させるに至った。
天下を三分する現状では些細な勝利かもしれないが、自ら考え出した指示で制した戦だ。幸村にとってはまた一つ大きな経験となった。
そして朱音にとっては初めて、明確に自らの刃で人を殺めた戦となった。会敵する前から覚悟していたことだが、一線を越えた事実は確かに心を揺さぶった。
「―――朱音ッ!」
戦闘を終えてから暫く姿を消していた彼女を見つけた幸村は慌てて駆け寄って来た。
明らかに心配している顔つきの幸村に、朱音は落ち着いて笑みを返した。人を殺める覚悟を固めていたことは幸村には打ち明けていなかったが、ここ最近の戦や戦術に取り組む姿勢から幸村も察していたようだ。
「やはり強いですね、幸村も、皆…ようやく少しだけ、わたしも近づけたと思います」
「……やはり、そうであったか。すまぬ、俺はそなたを止める事もしなかった。そなたの志を曲げさせて…」
「いいえ。わたしが決めた事です」
朱音の後ろから遅れて姿を見せた佐助がやれやれといった様子で二人を見守っている。つい先ほどまで取り乱していた朱音の姿を思い出して苦笑しているようだ。そんな佐助も視界に収めた幸村は改めて言い放った。
「護る。必ずやそなたらを。それが将としての俺の決意であり、唯一そなたらに出来得る報いだ」
俯かず、前に、前に。どこまでも真っ直ぐに進んで行って欲しい。それが朱音が憧れる幸村の姿。今回の勝利はその姿を取り戻す足掛かりになったはずだ。幸村は少し離れた場所にいた佐助を引っ張ってくるとその手を握り、もう一方は朱音の手を握った。
「改めて、どうか共に進んで欲しい」
「未熟ながらも必ずや、幸村」
「お給料ちゃあんと払ってくれるなら、俺様は何だってやりますよ、大将」