6.成長するために
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「幸村、幸村っ!今よろしいですか?」
早朝の鍛錬を終えた幸村の元に、大量の紙束を抱えた朱音が走ってきた。
落ち着きのない様子で息を切らしながらやってきたものだから、何事かあったのかと幸村に緊張が走った。
「如何したか!」
「こ、これ!見てください、」
バッと目の前に広げられたのは先日朱音に渡していた上田城の様々な図面だ。正しくはそれを書き写して朱音なりに考察や疑問、可能性等が端書きされているものだが、その余白に朱音のものでは無い筆跡が加えられていた。
どうやら朱音が想定していなかった敵襲パターンや、城の防衛系統の別視点での使い道について追記されているようだ。その内容は意表を突く物もあるが、これだけの数を想定し、あるいは使いこなせればより堅固に護ることが出来るだろう。
「これを書いたのは……?」
「さすけです、多分昨日の夜……!」
幸村も得心がいった。確かに追記されている内容は忍のような潜入する者の視点とその対策についてが多い。経験豊富な佐助だからこそ為しえる業だろう。
肝心の本人は諜報活動の為にまた今朝日の出より先に城を発ってしまった。
「今朝方佐助の報告を聞いた時は図面の話は出なかったが……」
「多分、わたしが見つけたら幸村にすぐ持っていくと見越していたのかもしれませんね。でも、お礼も何も言えないまま、また……」
担当する仕事が違う事もあり、最近は特に顔を合わせるタイミングがずれてしまうようで、朱音と佐助はまともに会話出来ていない。
申し訳なさそうに、心配そうに朱音は少し俯いた。上田城が占拠された際、2人にどんなやり取りがあったのかは幸村は知らないでいるが、少なくともそれ以来朱音が佐助の事を頻繁に案じているのが伝わってくる。
佐助なら大丈夫だ。報告の度に顔を合わせる幸村はせめてそう言ってやりたかったが、あの忍は本心を隠すことに長けている。一番大事な事は器用にしまい込むが故に、表面上は普段通りでもその実何か異常が抱えていても見抜ける自信は持てない。朱音もそれは理解しているのだろう。
ならば今は、互いに、自分に出来ることを。
「今朝は時間がある。佐助とそなたが書いた図面を俺もしかと読み込みたい。そなたの所感も改めて聞きたいのだが、頼めるか?」
「はい、もちろんです!」
朱音も直ぐに気持ちを切り替えるべく背筋を伸ばすと承知した。
また帰ってくる彼と、この城と、この国に住まう民が少しでも早く安心して過ごせるように。同い年の青二才どうし意見を交わす事にした。
「それにしても、初めて会うた時からは想像もつかぬほど成長したものだな」
「何ですか?」
「言葉すらも忘れていたというのに、今はこうして肩を並べ意見を述べ合うておる」
「……あれは、あの時が幼すぎたといいますか…あまり蒸し返さないでいただけるとありがたいのですが…」
「そうなのか。今も時折『ござる』を言っておるではないか」
ぷくっと朱音が頬を膨らませた。
やはり本質は変わっていないのだな、と幸村も笑みを浮かべた。