5.予想のそと
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ああ〜……気まずい。
そんな気分になりながら正しく忍足で進む。
『そろそろ素直に受け止めてやれ、佐助』
少し前に頂戴した昔馴染みからの助言がどうにも頭から離れないまま、上田城に到着してしまった。すっかり真夜中で月の光が城の影を浮かび上がらせている。
幸村とは報告の度に顔を合わせ話したり、やり取りはしているものの、彼女に最後に会って話したのはいつだったか。一週間は経ってる気がするが、この気まずさのほとぼりはなかなか冷めてくれない。
(……まぁ部屋の外から様子だけでも伺ってみるか)
早起きが苦手なくせに夜更かし癖のある例の人物。ちゃんと寝付いているか確かめるつもりで佐助はそちらへ足を向けた。
気配を悟られないように彼女の部屋の近くまで来ると早速異変に気づいた。部屋の灯りがまだ点いている。
結局また真夜中まで起きているのかと佐助は頭を抱える。ではどうしようか、ここまで来たからには戻ってきた挨拶くらいはした方がいいだろうかと、数歩進んでまた頭を悩ませる。しかしこんな夜中にわざわざ…とも思うし、割と本気で部屋に入るか迷っている状況だ。
(でも妙だな、起きてるならここまで部屋に誰か近づけば流石に分かりそうなモンだけど…)
試しに襖の直前、部屋の中からシルエットが分かるくらい接近してみたが、それでも中から反応は無かった。
ならば考えられる可能性は…。
スラリと襖を開ければ予測的中。
灯りをつけたまま机にうつ伏せて眠る朱音がいた。所謂寝落ちである。
机やその周りを見ると、城の見取り図が数えきれないほど重なっており、時折自分で模写したらしき用紙には所感を書き足したものもあるようだ。
『あなたに認めてもらいたくて』
あの時言っていたのは出任せではなかったらしい。
今回上杉と交渉の遠征では朱音は留守を任せられていた。無論彼女一人に全て任せる訳ではなく、城に残る者全体での務めであったはずだが…。佐助の想像以上に本気で取り組んでいたようだ。
「でもかっ飛ばしすぎじゃない?この紙の量は…」
例の如く、加減せずに没頭していたのだろう。散らかる図面や用紙を手早くまとめ、布団を敷くと朱音を抱えた。
ぴくり、と朱音の身体が動いた。流石に身体が抱き上げられた感覚で目を覚ましたようだが、うつらうつらと首が揺れている。
「さす、け……怪我、は?」
「してないよ」
「上杉様との、交渉は…?」
「成立したよ。旦那がよく頑張ってたぜ」
「無事、です…?」
「うん。皆ちゃんと帰ってきたよ」
「おか、えり…な、…」
「ただいま」
一瞬だけ目が開いたが後は瞼にくっついたまま、うわ言のように言葉を発する朱音の頭を撫でながら佐助は返事をする。布団の上に寝かせてやると素直に体重を預けたのでこのまま寝入るのだろう。
と思ったのだが、佐助が朱音の身体を離そうとした瞬間、辛うじて伸ばされた朱音の手が佐助の忍装束の裾を掴んだ。
「だめ……休ん、で……さすけ、」
「今日はもうそうするつもり。大丈夫だから」
またすぐに偵察に出てしまうと思い、必死に掴んできたのだろう。語りかけるような佐助の言葉を聞くと朱音の手の力が抜けた。そっと布団の中に戻してやる。
「あのね、また…話したいことが……」
全身は寝る態勢になっているというのにうわ言だけは止まず、佐助は呆れながらも微笑んだ。
「…幸村がね、……城の、……」
「はいはい。なあに?」
朱音が寝付くまでの間、佐助はその傍らに留まり相槌を打った。