5.予想のそと
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「君だね、噂の台風の目は。おかげでこっちも予定外の業務が増えたよ」
この人には顔を合わせる度にほんのりお小言をいただいてしまうなぁ、と朱音は困り気味に目を伏せた。
「運営委員も同じくらい忙しなく動いてるとは思うけどね」
「然り!だがおかげで今年の学園祭はこれまでにない盛り上がりになることだろう!」
「うん……大変だけど、当日は楽しくなりそうだもの…」
時は授業後。場所は生徒会室。
本日も運営委員としてやって来ていた朱音は、例によって生徒会副会長に絡まれていた。幸い今回は同行していた長政とお市がフォローしてくれる。
「それにしても実に意外な事態だな!あの野球部とサッカー部が合同出店しようとは!」
風紀委員として学園の事情をよく知る長政からも意外と感想を言われてしまった。常に派手に争い、学内でも有名な対立関係にある2つの部活が共同戦線を張る、という話はあっという間に学園中に知れ渡った。
ただ組むというだけならここまで大きく話題にはならない。意外である他にも理由があるのだ。
生徒会長である秀吉が腕を組み、頷きながら近頃の生徒の変化を語る。
「生徒自ら知恵を寄せ合い研鑽を重ねるのは良い事よ。これで活気づけば学園全体の力ともなろう」
「その結果、各部・学級共に企画書の再提出が相次いでいるんだよ。期限は今月末までだというのに…」
一度は完了しかけた備品や予算等の見直しと、確認作業に追われているんだ、と半兵衛はごちる。
「それだけ皆、企画コンテストの入賞を真剣に狙っているんだろうね」
学園祭中の各出店・展示・披露など様々な分類の中で学内で最も優秀な企画を決めるというものだ。
投票するのは学内の生徒、教員、それから来場者にもアンケート形式で集められ、最優秀企画には賞金と何でも願いを1つ叶えられる(※生徒会長権限の範疇で)という特権が与えられる。
高校生にしては法外な金額の賞金に、部活や教室の設備に様々な要望を持つ生徒達にとって、公然とその特権を勝ち取れる貴重な機会であると目を光らせている。
「ああは言っておるがな、全体の予算を上げようと提案したのは半兵衛なのだ」
ぷりぷり、フンフン!とした半兵衛に聞こえぬよう、秀吉が耳打ちするように朱音に教えてくれた。
野球部とサッカー部が組む露店に対抗して、他の部やクラスもより規模を大きくしたり、綿密な計画を再提出してくるようになったため、去年以上に運営費が嵩みそうだったのだ。どこか切り詰めなければいけないだろうかと運営委員内で話題になっていたのだが、思わぬ計らいで杞憂になった。
「学園長との交渉は俺が務め、無事承認を得た。従って運営委員よ!」
朱音への耳打ちを止め、生徒会室にいる全員へ秀吉は高らかに宣言した。
「学園長から承認が下りた以上、我々生徒会にも運営委員会にも失敗は許されぬ。学祭成功へ向けてしかと職務を全うせよ!」
「はい…っ」
*
「や〜!本当に助かるよ、恩に着るぜ!」
「特例中の特例だ。今度こそ次は無い」
両手を合わせ深々と頭を下げる佐助から鬱陶しそうに視線を外したのは金髪の美女だ。
ささっと頭を上げた佐助は彼女を朱音に紹介する。
「こんなに盛り上がっちゃうと流石に人手足りなくなっちゃって…、というわけで元新聞部のよしみで、かすがちゃんにも運営に入ってもらいました〜!で、こっちの子が同じ2年生の」
「噂は聞いている。今回の導因はお前だと」
「そ、そのようで……原朱音と申します」
苗字を聞いた途端、なるほどといった様子で頷かれた。朱音が学園に早く馴染めたのも、思っている以上に学園内で認知されているのも兄と家康に拠るものだろうなぁ、と合点がいく。
「よろしくな、朱音。新人戦も終わった所だし、自分の部の発表練習以外は手が空いているからこっちにも来られる」
「かすがさんは何部に?」
「新体操だ」
言われて納得した。その美貌とスタイルならばきっと新体操のどんな競技にも映える事だろう。前の学校には無かった部活でもあるし是非拝見したい、と興味津々に目を輝かせた朱音が眩しく見えるのか、かすがは恥ずかしそうに目を逸らした。
「……わかりやすい性格してるだろ、お前」
「ふふ、だろ?手伝ってあげたくなっちゃうでしょ?」
「だからお前も必要以上に、か。全く、」
ぎくり、と一瞬佐助が硬直したがかすがは見逃してやる。
それから運営委員があちこちで作業をしているこの教室の中を一通り見回すと疑問を口にした。
「風魔はいないのか?」
「さっきまでいらしたのですが…急に飛び出してしまって」
「多分時間的に図書室のおじいちゃんと一服しに行ったね。おやつタイム」
佐助と同じ3年生、風魔小太郎も新聞部員であるため、もちろん運営委員の助っ人として動いてくれている。極端に口数の少ない生徒で朱音はまだ彼の声を聞いた事がなく、何を考えているのか殆どわからないのだが付き合いの長い佐助は大概察しているので、基本的に彼とのコミュニケーションを取ってくれている。
「30分くらいで戻ってくるよ。風魔はね、司書のおじいちゃんがぎっくり腰になって倒れてる所を助けて以来、いつもお茶に誘われるんだよ」
「とても仲良しなのですね。そういえば図書室にはまだ行ったことないです…、あと新体操部にも!かすがさんが練習している所も是非っ」
「わかったから、また今度練習日に案内してやるから」
「俺様も見に行く〜!」
「お前は来るな!」
バシン!とかすがの手が佐助の背中を思いっきり叩いた。また怒られちゃったといわんばかりに佐助も緩く笑っており、どうやらこの2人も相当気心知れた間柄らしい。
また一人仲間が増えて運営委員会も賑やかになってきた。学内の事も覚えながらの活動は大変ではあるが確かに朱音の学園生活は充実している。