5.予想のそと
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幸村が上杉領へ発つのは伊達軍と同盟を結んだ為だ。
天下の情勢が揺れ動くなか、まだ大きな動きは見られないものの、軍神と呼ばれる上杉謙信を敵対する事は避けねばならない。協定関係を結ぶまでとはいかずとも、同盟軍の指針を説き、不可侵の約定を結ぶ事が目的だ。
「行って参る。城の護り……此度は正式にそなたに頼む、朱音」
「皆と力を合わせ必ず果たしてみせます。さすけにもよろしくお伝えください」
「うむ!」
上杉領へ赴く幸村一行を見送る朱音の手元は、城の図面と年季の入った兵法書をいくつか抱えている。
気概だけでなく、誰もを納得させられるように。今は新たな知識を求めるため、防衛のいろはを学ぶ事に力を入れている。
今朝も出立の少し前まで幸村と兵法書を読み、上田城の防衛にも応用できる箇所を共に考えていた。今から留守番中にも読み込み、敵方の様々な侵入の可能性を検討してみるつもりだ。
受け入れてくれた場所と人を守る為。前向きな動機は朱音の瞳に活力を灯してくれている。
その様子を見た幸村は安堵すると、共に己自身も堂々と、真っ直ぐ進めるよう努めねばと決意を新たに城を発った。
*
「存外立派に果たしているじゃないか、お前の主」
「そうだといいんだけどねぇ」
上杉謙信との交渉の場を見届けた二人の忍が城から少し離れた森の中で言葉を交わす。
現・武田軍総大将として幸村は対話に臨み、未熟な自身を正直にさらけ出しながらもその信念をしかと伝えた。若さ故の青さと本人の性格による実直さ。現状の己の器に適した判断と行動を正しく選び進もうとする姿勢に謙信も納得し、不可侵の約定を承諾するに至った。
「奥州との同盟か……甲斐の虎では取らなかった選択肢だろうが、成立したのはお前の主が持ちかけたからこそだろうな」
「結果的に上手くいったから良かったけどさ。そこまで行くのにか〜な〜り〜危なっかしかったんだぜ、」
「……お前、少し頭を冷やした方がいいかもしれないな」
今は武田軍の副将であるという同郷の幼馴染は、上杉との約定が成立したというのに尚も不安や焦燥の思いが強いようだ。
謙信が幸村の提案を承諾したのは幸村の将としての成長を確かに感じ取ったからだ。謙信の一番の側近であるかすがもそれを理解しているからこそ、やや視野の狭まっている佐助に不本意ながらも諭してやる。
「過剰すぎるほど慎重になっていないか。真田の性格からして過保護になるのもわからなくはないが……、傍にいるのならまずは互いの心を通わせる事が肝要だ」
「忍同士との会話とは思えねぇ感情論だね」
「だが、お前の主にはそっちの方がいいだろう?」
否定しようもないかすがの指摘に佐助は押し黙った。
影に徹する覚悟をしたというのに、周りの人間からは真逆の事を諭されたり訴えられるばかりだ。
「聞いてるぞ、真田をぶん殴って本気で凹ませたと」
「う、……また勝手に喋ったなあのチビ助…!っていうか聞いてるだろ今も!」
佐助が少々声を荒らげると、少し離れた木々の間からあっさりと件の少年が姿を現した。
かすがも先程から気づいていたようで特に驚いた様子はない。
「もって言ってやってよ。かわいい部下の俺からじゃ全然取り合ってくれないんだもん〜」
「調子に乗るな、お前も」
幸村達より一足先に出発し偵察と佐助達と情報交換を務めていた小助。
上杉との交渉が成功し、病み上がりな彼もようやく安心できたようで普段のゆるい態度に戻りつつある。
この軽々しい物腰といい、変な所が天敵幼馴染に似てしまったな、とかすがはため息を吐くと2人を見遣る。
「とにかく用は済んだんだからお前たちはさっさと帰って休め、寝ろ!揃って顔色が死にすぎだ!」
「え〜俺様は別に怪我とかしてないけど?」
「なら余計ダメだろ」
負傷の際の出血で小助は貧血気味だが、佐助の顔色は恐らくずっと各地を飛び回ってばかりで纏まった休息が取れていないが故だ。所謂過労が顔にも現れているという指摘だった。
「謙信様との交渉が成立したんだから、しばらくは敵対勢力も慎重になるだろう。今のうちだぞ」
「うわ、よく見たら佐助の顔色ほんとに悪ッ!死人みてぇ!そんなんで朱音ちゃんに会ったらまたあの方泣いちゃうよ」
「朱音……織田討伐の時にお前と喧嘩してたあの娘か。あんなにかわいいのを泣かせたのか、お前」
「………」
「出た。弱いよねぇ、朱音ちゃん出されると」
極端に口数が減った佐助にしてやったりと小助は笑った。実際朱音本人からも佐助の様子を見てあげてほしいと、頼まれていたから小助はこの場にやって来ていたのだ。
必死に感情の起伏を顔には出すまいとする佐助を見守るかすがは穏やかな声で腐れ縁に助言した。
「お前が守りたい場所や人は、同じようにお前を大切に思っているんだ。そろそろ素直に受け止めてやれ、佐助」