5.予想のそと
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「やっほ、朱音ちゃん」
「小助…!もう復帰されるのですか?」
朱音が振り向いた先には忍装束を纏った小助が立っていた。
先日の上田城占拠の際に負傷した小助は暫く安静にする必要があったはずだ。実際完治はしていないのだろう。夜の闇の中でも顔色があまり良くない事がわかる。
「これから出るんだけど、今回は戦闘要員じゃなくて様子見ながらって感じ」
「ああ、確か明日は……」
「そうそう、その下見ね」
「血の気を補う丸薬はまだありますか?」
「ちゃんと持ってるよ。朱音ちゃんこそ背中の怪我はもう大丈夫?」
「だいぶ落ち着きました。こうして見張りを任せてもらえるようになりましたし」
そう言った時、ちょうど見張りの交代がやって来た。今日の朱音のお務めはこれでおしまいだ。
特に異常はなかったと相手に伝え、朱音は挨拶をすると屋内に戻る事にした。
「どうかお気をつけて、小助」
「うん、ありがとう。行ってきます」
*
「朱音…?」
「遮ってしまい申し訳ありません。ですが幸村、もうお休みになりませんと」
すっかり夜も更ける時間帯。今夜の月と星々は雲に隠れ普段より暗い。そのせいか少し肌寒くもある。
上田城の夜番を交代し、貸し与えられた部屋に戻ろうと歩いていた朱音はこの時間帯に不相応な物音を耳にすると、そちらに赴いた。
音を辿って鍛錬場に着くと、そこには幸村が一人で槍を振るっていた。
「そうなのだが、どうにも落ち着かなくてな」
伊達軍との同盟を結び、今や武田軍も再び天下へ大きく迫る勢力として知れ渡り始めている。今は武田総大将として采配を託されている幸村への内外からの重圧は計り知れない。まだまだ知るべき事も決断すべき事も山ほどあるに違いない。それ故に休む気分になれないでいるのだろう。
「休息を疎かにしていては、またさすけに怒られてしまいますよ」
「……む、それは堪える」
一層油断のならない情勢に於いて、佐助はじめ忍隊はかつて以上に各地へ飛び回っており、今日も姿を見ないまま1日を終えた。
先日の本気で怒った佐助の剣幕と平手打ちが相当効いているのか、幸村は大人しく槍を下げた。
「して、朱音。そなたの方こそ休まねば。雷の制御は消耗が激しいと聞き及んでおるが、」
「少しずつ慣らしている所です。きちんと使いこなせれば戦場でもきっと役立てられますから」
「……すまなかった。俺が不甲斐ないばかりに、居合わせたそなたを乱世の渦中へ引き込んでしまった」
「いいえ、自分で選んだ事です。自分で見て、知って、考えて決めた事ですから」
そう言うだろうと思った。決して責任を他人に押しつけはしないだろうと。幸村は複雑な笑顔を浮かべた。己とも似た性分。一度決めたら容易には引かず、それ故に留まりはしないだろうと。
だからこそ、そんな命を捨てる覚悟を持つ者達を護る事こそが最も重きを置く志であり、きっと己にしか成し得ない事だと幸村は改めて決意を確かめた。
「明日……もう今日でしょうか。上杉様の元へ停戦のお話に赴かれるのでしょう?」
「ああ。佐助達とは向こうで合流する」
「でしたらお寝坊しないためにも……」
緊張感の中で日々過ごしているが久しぶりに幸村と落ち着いて話せたせいだろうか。それに見張り番を終え今は少し緊張も解けて来たのだろう、朱音の声色は緩んで目元を弱く擦っている。
久しぶりにまだ幼さを残す顔立ちの『らしい』仕草を目にした幸村は思わず微笑むと、共々休眠を取るべく鍛錬所を後にした。
「そなたは信念を曲げてでも、武田を選んでくれた。心強く思うておる、朱音。その思いに必ずや報いよう」
「はい、まだまだ頑張ります……さすけも、きっと……幸村を、」
「足元がふらついておるではないか……!部屋の前まで送ろう」
「た、だめです……幸村は、わたしよりちゃんと寝ないと……ござる、」
慌てながらも何だか懐かしいやり取りだと幸村は思い返しながら微笑んだ。
結局幸村に送り届けられた朱音は部屋に戻った瞬間眠りに落ち、幸村自身もその日の寝つきは早かったという。