5.予想のそと
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緊張した面持ちの幸村が佇んでいる。
両の拳を握り、眉間に皺を寄せながら言い出すのを躊躇っているようだ。
「なんだ?ついに降伏宣言か?」
晴天の屋上にて。
対して向き合う政宗は腕を組み、余裕そうな笑みを浮かべてライバルを見据えている。
「……貴殿に、野球部へ提案がござる」
「Ah?」
この手の軽口には必ず言い返して来るはずだが、決心したように顔を上げた幸村に政宗も普段とは違う何かを察したようだ。
大きく息を吸った幸村が遂に切り出した。
「学園祭の企画店、我らサッカー部と手を組みませぬか!」
「……つまり共闘か、アンタとこの俺が?」
出会って以来、何事も対立するように競り合ってきた二人だ。政宗も意外な提案に目を丸くした。
常に争ってきた好敵手という認識はもちろん幸村にもあるが故、緊張を解かぬまま頷いた。
「上手く行くかなぁ、真田の旦那」
「そこまで激しく対立していたのですか」
「負けず嫌いだからね、お互いに。意地を張る以上に有益な話だって分かってもらえるといいんだけど」
「ガスコンロ、椅子、机……調理器具も追加申請だな。収穫量に提供メニューも練り直さねぇと……」
政宗と1対1の話し合いに臨んだ幸村の結果を待つ面々は、比較的屋上に近い空き教室にて待機している。
「元々独眼竜は一匹狼みたいな質だったっていう話でしょ?散々争って来たウチらと組んでくれるかなぁ……ねぇ、片倉の旦那?」
「どうせなら野菜の風味を活かせる色んなテイストにしてぇな……」
「既に交渉成功したつもりでいらっしゃいますね」
窓の外の気持ちの良い青空に目もくれず、机に齧り付いて熱心に書き出している小十郎に佐助と朱音の会話は入って来ないようだ。
大真面目な顔つきで、興奮冷めやらぬ勢いでA4サイズの計画用紙をどんどん埋めている。
「色々対立してきたけど、こんなあっさり説得できた片倉の旦那は初めてだったよ」
コラボの詳細を聞いた途端に承諾すると、現部長の政宗の返事も待たずに企画店の構想見直しに入ってしまった。
別々に出店して宣伝を兼ねた野菜のやり取りのみという提案もしたはずだが、それ以上に二つの部活による大規模な店の経営による様々な野菜の提供の可能性に心を奪われたらしく、既に合同のつもりで計画を進めているようだ。
「本当にお野菜が好きな方なのですね」
「野菜は俺の癒しだ。かわいいぞ」
そこだけ耳に入ったようで、胸を踊らせる小十郎の言葉が挟まれた。
「先に片倉の旦那がここまでやる気になってくれたんだし、竜の旦那も承諾してくれるといいんだけどねぇ」
佐助と朱音は教室の扉の方、つまりは屋上へ続く方角を見詰めながら話していると、ついに騒がしい声が聞こえてきた。
「そっちが俺らに乗って来るんだろうが!だったら『龍虎STAND』一択だろがッ!」
「否!野菜の風味を最も活かせるのは我らサッカー部のほうとう於いて他無し!『虎龍食堂』にござる!」
「ンだよ虎龍って!『こりゅう』なんざ聞いた事ねぇし響きもCOOLじゃねぇ!食堂ってtitleもそれこそ古流だぜ!」
「ならば虎龍道場にござる!」
いつも通り言い争いをしている幸村と政宗がこちらへ向かって来ているようだ。
その内容を窺うに……。
「…………猿飛さん、」
「……ということは、だね」
佐助と朱音の視線がかち合う。それから同時に笑顔を浮かべた。
相変わらず計画修正に夢中になっている小十郎にはまだ言い合いの声は届いていないようだが、あと数十秒もすれば彼の先走った熱意も報われる事だろう。