こがらしの記憶
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「本日の目標!もう一着の蓑を完成させます!」
「よく言うよ。昨日はほぼおれ一人で作ってたのに」
「ちゃんとやり方を見ていましたから、昨日よりはお役に立つはずです!」
朝一番から向けられるこの底抜けの元気な笑顔はなんなのだろうか。
結局昨日の内じゃ一人分しかできなかった蓑で二人の身体をくっつけて眠った。……だって寒いからそうしようっておねーさん聞かないから。
昨日の朝も思ったけど起きた瞬間誰かが側にいるって、なんだか慣れない。おまけに早速うるさいし。
「どうしました?まだおねむですか?」
「ん~ん、べっつにー。いいからさっさとやっちゃお」
「はい!頑張ろう!」
「はいはい」
おれの生返事を余所に、若干暑苦しいくらい元気なおねーさんは早速昨日の内にかき集めておいた藁を取りに行っていた。変なとこは素早いよね。
「はい、ちびちゃん先生!お願いします!」
「結局おれ頼みなのね」
「丸投げじゃないですよ、より上手に作る為です!」
「はいはい、お任せください」
*
「やっぱりちびちゃんが結んだ所の方が綺麗です…」
「経験の差じゃない」
「でも完成しました。初めてからにしてはきっと上出来です!」
「初めてだったの?」
「た、多分…」
記憶がふわふわしているらしいおねーさんとふわふわした会話をする。
「で、そんなふわふわしてるのに、なんで笑ってるのさ」
いつだって眩いくらいの笑顔を向けてくるこの人には今日のお昼を過ぎてようやく慣れてきた気がしないでもない。
じーっと見つめるおれをおねーさんも見つめ返してくる。
「うーん、多分ちびちゃんといるからです」
「は?」
「本当に一人だったらこんなに笑っていないと思います」
「………のーてんき」
「あら、どうしましたか?」
「どうもしないけど」
心地いい気がする痛みで胸の奥が少し苦しくなった。どうしてかそれを目の前の人には伝えたくなくて、適当に返して俯いていると、背中に何かが被せられた。
確認するとたった今出来上がったばかりの蓑だった。本人が言っていたように新しい方が結い目の荒が少なく入り込む風もだいぶ防げるみたいだ。
こっちの方があったかいんだから、こっちをおねーさんが羽織ればいいのに。
再び目の前に視線を持って行けば、例によっておれに視線を合わせる為に膝を折っているおねーさんがいる。
「あったかいですか?」
「十分だよ」
「よかった。さて防寒具もできた所でこの辺りをお散歩したいのですが、ちびちゃん、疲れてますか?」
「…どういう意味?」
笑顔なのは変わらないけど、おずおずと訊ねてくるおねーさんの意図がわからずおれは首を傾げた。
「よかったら一緒にお散歩したいのですが、」
「……」
「でも、ここでお休みしててもいいですよ、暗くなる前には戻ってきますから」
恐らくまた無表情で黙っていたおれの反応を見て、おねーさんは慌てて離れるように立ち上がった。
そっか。おれ、気を使われているのか。
一緒に行きたいけど蓑作りで疲れているかもしれないから、って。
「いいよ。放っておいたら迷子になってそうだし」
立ち上がると纏った蓑がカサリと音を立てる。
表情の変化が乏しい事は多少自覚してるから、おねーさんはおれの気持ちがわかりにくいのだろう。おれの様子を掴みあぐねていた彼女の手を握った。
「どこ見たいの?」
見上げたら、おねーさんは本当に嬉しそうに笑っていた。
……なんか、居心地いいような、悪いような。
もしも、これからも一緒に居られるのなら、おれもこんな風に笑えるようになるのだろうか。
「ちびちゃんのおすすめの場所がいいです」
「それ、無計画って言うんじゃない」
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