5.予想のそと
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「気概だけは褒めてやるよ」
予想通りの反応だ。幸村はグッと唇を噛み締めた。
目の前に佇むのは伊達軍大将・伊達政宗。
大阪を目指し進んでいた彼に同盟を申し込むべく早馬を出し、行軍の脚を止めてもらい現在に至る。
大阪に入る前に辛うじて間に合ったのは幸村の決断が早かった故だ。
上田城を返してから数日も立たぬうちに件の文が届いたため、流石の政宗も意外そうな反応を示した。
「よりにもよって、先日テメェの城を乗っ取ったこの俺に申し込もうとするとはな」
「……返す言葉もござらぬ。しかし、この不安定な情勢、情報も入り乱れるなか某が信用し、太平なる天下への信念をお持ちなのは……貴殿である、と」
「確かに俺らが組めば自然と周辺の国も幾らかついてくるだろう。やがて徳川や石田の勢力にも拮抗出来るくらいの、な。だが、」
隻眼が幸村を鋭く睨む。幸村はそれでも怯むものかと背筋を改めて伸ばした。
「アンタとは、今度こそ天下を競り合って戦うものと思っていたんだがな。後先考えず突っ込んでたアンタが敵国と手を組む事を考えるたァ……国の首になって弱腰になったか?」
「それは否!お館様に代わり取り纏める立場になればこそ兵や民、その千を超える命の重さを噛み締めこの手で護らんが為に!一刻も早く争乱を収めるべく、信ずる者と手を組むべきと決断いたし申した!」
命を掛けて迷いを取り払い、奮い起こそうと踏み込んできてくれた彼女の願いと、自らが血に沈み汚れ続けながら、護るべき場所を死守した彼の意志。
今度こそその思い達に応える為に。彼らの前に堂々と立つ為に。
数日前とは最早別人のように凛と向き合う幸村に、諦めや妥協の意志はないと政宗は判断した。
「それにしてもお転婆はともかく、あのトんだ忍もよく了承したな」
「……また殴られる寸前まで行き申した」
「だろうな。それでもテメェの意志を貫いたか。それでこそがアンタだな、真田幸村」
「ま、政宗殿!それでは!!」
「組むからには絶対獲るぞ、天下。アンタとの決戦はその褒美roundだ」
「う、うむ!うむ!!臨む所ッ!よろしくお頼み申す!!」
*
「また会おうものなら本気で刃を交えるつもりでいたんだがな。何が起きるか分からねぇモンだ」
不敵に笑った小十郎に重めの沈黙が返ってきた。
「……冗談だ。そう湿っぽくなるな、『武田軍の』小娘」
「…………」
あちゃ〜、と佐助は額を手で押さえる。傍らには露骨に渋い顔をした朱音が佇んでいる。
誠意を示すため、という幸村の意向の元、政宗とは一対一で同盟交渉をしている間、待機していた従者達の間には不自然な沈黙が漂っていたが、同盟が成った後も居心地の悪さは継続されている。
「固めた覚悟を示そうとした相手と今度は手を組む事になるとはな。運が無かったな」
「…………いえ、」
殺めずに済むのならそれで構わない。とは思っているものの、殺意を向けたはずの相手と今度は手を結ぶ……乱世の当事者の一人になったばかりにして、早速動乱の風向きの荒らさを身をもって感じでいるところだ。
「素直な所は相変わらずでいい事だ。なぁ猿飛」
「なぁ〜んでそこで俺様に振るのさ」
白々しい笑顔を浮かべた佐助が鬱陶しそうに応える。
大変優秀な忍であるが故だろうか、相対するその表情から感情は伺えないが、その実の内面では朱音以上に複雑な心境でいるのではないかと小十郎は推測する。
「忙しくなるな、互いにな」
「まぁね。結局徳川、石田との三つ巴にもなり得るし」
「影の腕の見せ所だな。有益な情報を頼むぜ」
「そっちこそちゃんとウチと連携取ってよ」
お互いの立ち位置を確かめるような軽口を言い合っていたが、不意に小十郎が相変わらず険しい顔つきの朱音に話しかけた。
「ところで朱音。折角同盟を組めたんだ。将としての基礎や戦術を幾らか教えてやろうか?お前は素質がある」
生かすため、勝つため、治めるため。その為に必要な知識を大きく欠いている自覚のある朱音は思わず顔を上げた。明らかに興味を示している朱音の視界を小十郎から遮る様に佐助が立ちはだかった。
「はぁ〜?勝手にウチのに干渉しないでくれる?」
「なんだ。仲直り出来てたのかお前等」
「そもそも喧嘩なんてしてないっつの。そういうのはこっちでやるから」
「ほう。言質取れて良かったな、朱音」
大方の事情は先日の上田城で十分察していた小十郎にからかわれるような笑顔を向けられ、朱音は気まずく思いながらもゆっくり頷いた。
片や佐助は流れのまま口にした言葉に早速後悔した。