5.予想のそと
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文字通りの一番乗り。夏休み前には提出されていたという企画書。
『DRAGON STAND』
「去年好評だったものでな。言わずもがな今年も、と政宗様も二つ返事だった」
以前からこの場所に興味を持っていたため、公的に足を踏み入れられて朱音は嬉しく思う。背伸びをして一面を見渡すが、思っていた以上に果てが遠くにある。
「壮観です。遠くで見ていたよりずっと広いんですね」
「というか勝手にどんどん面積大きくしてるんだよね?片倉の旦那」
「気のせいだな」
「うっそだぁ〜。前に取材で撮った時より絶対大きくなってるってぇ」
「気のせいだぜ」
強面ながらも朗らかに微笑む3年生の野球部員・片倉小十郎は明後日の方を見ながら答えた。
やれやれ、と息をつくのは朱音の隣に立つ同じく3年生の佐助だ。
「今年は去年より提供数も種類もぐんと増えるぜ」
「野球部員達が練習の合間に育てた野菜の販売、並びにその野菜で作った飲食の提供……。斬新な企画です」
「そりゃあ普通野球部が畑仕事なんてやらないもの」
意外性、話題性共に強烈で、類を見ない個性の強さだ。
さっそく学園祭運営委員として、企画実行にあたり現場確認に訪れた朱音は目を輝かせている。
「今年は企画店開催希望地もこの畑で提出されていますね。正門や校舎から少し離れているのでお客さんの目に付きにくいかも、という意見も運営会議で出ていましたが大丈夫でしょうか?」
「問題ねぇ。当日は野球部員総出で学内で呼び込みをする予定だ。それにここなら他と被らねぇから広々と使えてな。畑の側に机や椅子を設置してイートインスペースも設ける」
だからここにも書いてあるんだ、と。備品希望欄の箇所を指差しながら小十郎が説明してくれた。繁盛させるための様々な視点が既に盛り込まれているようで朱音は感心した。
「後はそうだな、電気とガス栓がここまで引っ張って来られるかだな。運営で確認しておいてもらえるか」
「もちろんです。今学内の企画店全体に確認しているところです。グラウンド内のコンセントのテストもしながら回っていますので、来週にはお答えできるかと」
「あらら、この調子じゃウチの部は野球部に食われちまいそ〜……」
「新聞部がですか?」
「あ、そっちじゃなくて、サッカー部の方」
佐助のごちりを聞いて得心がいく。常日頃グラウンドの使用権から何かと張り合っている幸村と政宗の姿が思い浮かんだ。
『今年の企画店は野球部の一人勝ちだなァ!』なんて勝ち誇る政宗に『なんの!勝つのは我らサッカー部にござる!』と噛み付く幸村の様子が朱音にもありありと想像出来た。
「で、お前は今年も運営部に強制参加か?猿飛」
「情報管理や宣伝は新聞部の本領だから慣れたもんよ。今日は新人ちゃんの補佐がてら学祭用ネタ探し」
「ご苦労な事だ。それに筋のいい新人のようだな」
小十郎は佐助と同じく年齢は1つしか違わないはずだが、どうにも貫禄がある佇まいで褒められると妙に畏まってしまう。
必要以上に畏怖される事には慣れているようで小十郎は苦笑した。
「ところでサッカー部も露店で企画書を出していましたね」
「そうそう。毎年お館様……顧問の好きなほうとうで出してるのよ」
「ほうとう?」
「うん、ほうとう鍋。沢山の根のもの野菜と平たい麺が入ってて、味噌味が定番だね」
小十郎に挨拶をして別れた後、新人運営委員とその補佐役の新聞部員は、他の野外企画店やグラウンドの地面に配置されているコンセントのテストをしながら2人で歩いている。
ほうとう、という食べ物にピンと来ないらしい朱音は佐助の説明を興味深そうに聞いている。
「お鍋ですか……学祭は12月なので人気が出そうです」
「そうなんだけど、去年は野球部の野菜スタンドに話題に取られがちだったのよ……今年はパワーアップするって言うし、」
「お野菜が要という事で被ってしまうんですね………それならいっそコラボしてしまうというのは?」
「えっ」
なんの気に無しに提案した朱音に佐助は驚いた表情を向けた。
野球部とサッカー部は正に犬猿の仲。事ある度に争いが絶えず常に火花を散らしている関係性だ。
想像以上に驚いた反応の佐助に、もしかして言ってはいけない事でも言ってしまっただろうかと朱音も慌ててしまった。
「いや、ごめんごめん。完全に予想の外の発想だったから。でも確かに……ナシ、ではないか……?」
「お野菜だけのやり取りでもいいですし、思い切って合同にしてより大きな規模、面積で展開すれば人目、関心を集められたりも……?」
「………アリ、かも」
聞いた瞬間は驚きに大半の感情を持っていかれてしまったが、冷静に考えてみると最終的な効率や利益はそちらの方が良いのかもしれない。佐助は顎に指を当てながら真剣な表情をして考え出した。
「いつも張り合ってるから、組んだとしても何かにつけて対抗意識燃やして皆張り切りそうだし………、うん、一度旦那達にも相談してみるよ」
また手を組むのもいいかもね、と遠くを見ながら笑顔を浮かべた佐助。だがどこか面白がっている雰囲気もあり楽しそうだ。朱音も気づけば笑顔を彼を見守っていた。