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「それなら運営委員会に入るのはどうだろう!」
ビシッと威勢のいい声で勧められた案は確かに今の己に丁度いいのかもしれない。
だが当然懸念もある。
「でも、また転校して日が浅いので……運営側としてきちんと出来るかどうか…」
「心配無用!運営委員は生徒会はじめ、多くの部と連携しながら活動する。きっと君を助けてくれる人間も多くいよう!」
無論この私もその一人だ!と親指を自らに突き立てるのは風紀委員の浅井長政。
出会った日のように帰り際、正門までの道のりで再び彼等と出会うと、自然と学園祭の話になっていた。
「市も、お手伝いするわ。わたがしちゃんと、一緒にやりたい…」
「わたがし…?もしかして、この髪の事ですか…?」
「ふふ、冗談よ。でも本当にどうかしら?朱音」
常設の部活動ではなく、この時期のみ有志で結成される学園祭運営委員会。入る部活を決めあぐねているなら、ひとまずどうだろうかと勧められたのだ。
「各クラスや部活の企画や予算、必要な資材・備品等々の確認とやり取りをする事になる。学内を動き回る事にはなるだろうが、見学も兼ねるには丁度良いかもしれんぞ!」
「なるほど。それに生徒会の人ともやり取りできるなんて…!」
また秀吉と何か一緒にできるかもしれない、と朱音は心を踊らせたが、対照的に長政は不可解そうな視線を寄越してきた。
「君は珍しいな……あの生徒会に積極的に関わりに行きたがるとは……」
「そうですか?」
「あそこは曲者揃いだろう。君みたいな女子生徒ともなれば、特に豊臣の生徒会長が恐ろしく見えたりはしないのか?」
「秀吉さんですか?秀吉さんとは昔馴染みなんです。とってもお優しい方ですよ!」
信頼を寄せ緩んだ笑顔を浮かべる朱音が意外だったのか、長政もお市も面食らっていた。
確かに秀吉は兄と似て口数が多い方ではないゆえに、周囲から誤解されやすいのかもしれない。しかしそうした印象を抱かれているとしたら尚更自分が関わっていきたい、と朱音は決意を固めていく。そもそも学園祭運営委員会は生徒会だけでは準備や業務が回らないということで、暫定的に設置される組織なのでとても密接なポジションなのだ。
「というわけで決断しました。よろしくお願いいたします!」
*
「ひでよしさん〜っ」
「なんだ貴様は!」
ノックをして戸を開けた矢先に怒鳴られてしまった。
朱音が唖然としていると、銀髪の男子生徒がずかずかと目の前を塞いできた。
「秀吉様を馴れ馴れしく呼び、腑抜けた顔面でこの生徒会室の扉を開けるとは……!痴れ者が!」
「え、え、あの…」
「やめよ三成。我の昔馴染みだ」
三成、と呼ばれた生徒にとんでもない勢いで捲し立てられ、リアクションが取れずにいると奥から馴染みのある声が聞こえてきた。
思わず息を吐いていると、彼がこちらまで来てくれた。
「秀吉さん!」
「すまなかったな、ろく。三成は今は少々気が立っておってな」
「ひ、秀吉様!貴方様のお知り合いとは露知らず…!どうか許しを請う許可を、この私に!」
「我でなく、ろ……朱音へ直接言ってやると良い」
「……、」
三成は秀吉の前に傅いていたが、朱音にはギッと険しい視線が寄越された。
そこまで失礼な事をしてしまったのだろうか。と視線に気圧されて半歩下がってしまうと、それに気づいた秀吉が朱音の頭に掌を置いて宥めてくれた。
「すまぬな、三成は本来とても優れた書記なのだが、」
「で、ご用件は何かな?転校生君」
更に部屋の奥から別の人物の声がすると、先日出会った半兵衛がにこやかな笑顔を向けてこちらを見ていた。いや、こちらというより朱音の頭の上にある秀吉の手の辺りを見つめているような気もする。
「は、はい。学園祭運営委員の届け出を提出に…。職員室ではなく、ここだと伺いまして」
「その通りだよ。運営部の管理は生徒会が行うからね。受け取るからこっちへおいで」
声色、表情共に穏やかなのだが、やはり初めて会った時と同様、彼は表出の裏ではどうも違う事を考えているような気がする。
察しだけはいい朱音がやや緊張気味の足取りで彼の元へ行き、書類を手渡した。
「うん、内容に不備もなし。受領したよ。転校してきたばかりなのに熱心だね」
「少しでもこの学園をよく知れたらと思いまして…」
「そう。じゃあ学祭までよろしく頼むよ」
「は、はい。ではこれで…」
どことなく得体の知れない半兵衛と、よくわからないけれど気の立っている三成がいる空間は流石に長居しようとは思えず、朱音は早々に立ち去る事にする。
「失礼します」
「うむ、またな」
生徒会室を出る際、秀吉だけは相変わらず微笑みながら手を振ってくれたのが救いだ。
思えばせっかく学内で秀吉に会えても中々ゆっくり話せない。慶次とは学年が同じため普通に話せるというのに。おねねとの進展の事だってまともに聞き出せていない。どうしたものかと朱音は考えながら廊下を歩いて行った。
『秀吉!今日からは帰る時は僕にも手を振ってくれ!』
『う、うむ……?』
そんな生徒会室でのやり取りはギリギリ朱音の耳には届かなかった。