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時期外れの転校生は放課後に色んな部活を見学して回っている。
生徒達が授業や部活への取り組む姿勢から、この学園の雰囲気もだいぶわかってきた。何より転校して1週間以上経っても全てを回りきれないほど数も多い上にどこに所属しようかと朱音を頭を悩ませていた。
いっそのこと幼馴染のように、どこにも所属せず色んな部活をずっと見て回っていたいとさえ思ってしまう。それくらいどの部も活気に溢れていて、魅力的な学園なのだ。
だがそれとこれとは話が別だ。
「もう結構です。秀吉さんから怒ってもらいます」
「や、やや!ごめんてば〜!」
昨日の朱音と夢吉までも置き去りにして何処かへ飛び出していった慶次に苦情を言うべく詰め寄ったものの、当人は何を言ってもへら〜 や、にや〜 とした態度でしか返さないため本格的に朱音は立腹だ。
「ではどこに行っていたのですか!面談室まで案内してくださった猿飛さんにもお手間を取らせてしまったんですよ!」
猿飛という名が出た事で、昨日の占いを知る慶次の表情が待ってました!と輝きそうになるが、朱音の剣幕を見るに今は言及しない方が良いとこっそり判断した。
「昔から色恋沙汰に夢中になる人だとは思っていましたが、他の方にまでご迷惑をかけるだなんて…夢吉ちゃんだって寂しがっていたんですよ!」
結局昨日はあれから慶次を見つけられず、連絡も取れずで夢吉は一晩原家で預かったのだ。慣れない環境での寝起きでは夢吉も落ち着かなかった事だろう。
翌朝たる現在、こうして下駄箱で夢吉と待ち伏せていたのだ。
「でも夢吉、すげーご機嫌に見えるんだけど…」
「それは昨晩と今朝、兄上のデザートを食べたからだと思います」
何故か兄の食後の楽しみばかりを狙いすまして夢吉は兄の同情を誘ったり、隙をついて掻っ攫って追いかけっこが始まったりと実のところ結構自由に行動していた。オスだからと夢吉をお風呂に入れたのも忠朝である。
「家康が聞いたらまた面白がるだろうな〜っどこにいるかな!」
「わたしとの話がまだ終わってません!」
「う、ごめんごめん…」
しかしながら朱音の様子を見るに、何かしらの佐助と進展があったわけではなさそうだ。
鶴姫が珍しいと言っていたものの、流石に事を急ぎすぎたかもしれない。朱音の生真面目な性格を考えるに、ノリと勢いでどうにかなるものでもなさそうだ。
ウーン、と慶次は首を捻る。いっそそれこそ秀吉に相談してみようかと憤慨する朱音を他所に考えていた。
*
「ただともぉーーー!!新人戦だーーー!」
「いい加減にしろ!3年は出られん!」
「そうだった!なら新人戦までの練習相手にーー!!」
「石田に言え!」
「三成にはもう断られてるんだ!こないだは刀まで持ち出されてしまってなぁ」
「俺も何度も断っている…!」
「三成は執行部も忙しいからなぁ、忠朝なら時間作ってくれるだろう!?」
「3年は受験だ!」
『ギュイーーーーン!』
朱音が慶次に詰め寄っていた同時刻、学内の廊下で兄である忠朝もまた馴染み(一方的に馴染まれたもいう)の後輩に捕まっていた。
本多忠勝までも合流し、朝から往来の大注目を浴びている。
毎度騒々しくも賑やかなもので、日頃勉学やら進路に追われる生徒達らは和やかに憩いを求めるように見守っている。
「もはやちょっとした学園名物だよね〜」
ぽそっと呟いた声を聞いた瞬間、忠朝はもの凄い形相で踵を返し、声の主の元へ迫った。
「猿飛!」
「わ!なんで俺様だけ!?見てる人いっぱいいるでしょ!」
逃げないようにとシャツの襟を掴まれてしまい、佐助は降参のポーズで忠朝をなだめようとするが、忠朝は怒りを鎮める気はないようだ。
「お前が妙な記事書いたせいで、余計に注目されるようになった!」
『衝撃!剣道部主将の意外な一面~新入生との出会いがクールな性格を変えた!?~』
なんてふざけたタイトルのギャグ記事を過去に書いていた新聞部員・猿飛佐助。
今年の夏頃から見かけるようになったこの人目を引くやり取りに焦点を当て、文字通りお遊びで書いたオマケコラムだったのだが、忠朝と同学年と剣道部員には存外好評を得て、気づけば学園内にも広く知れ渡り拡大一面版も改めて執筆したのだとか。
「いや〜生徒の需要も知れたし俺様もいい経験できたなぁ〜、てへ」
「忠朝!まだ話は終わってないぞ!今日こそは!」
佐助に掴みかかりつつ背中から家康に腕を引かれる忠朝は周囲から注目を集めている事も重なって正直キャパオーバーに近い。
そんな中また新しい火種がやってきた。
「本当に知りません。本当に秀吉さんに言いますから」
「それは困るよ〜!秀吉もだけどそういうのは絶対半兵衛もついてきて長々と小言言われちまうんだもん〜!!ってあれ、忠朝!また家康と遊んでたのかい?」
まだ言い争いを続けていた朱音と慶次だった。慶次、といえば昨日突然泊めることになった彼の相棒の件を思い出し、また忠朝の脳内の負荷が増えた。
「あ、兄上!なぜ猿飛さんに掴みかかっているのですか?」
「いや〜昨日はごめんな忠朝!夢吉が世話になったみたいで!」
「キッ!」
驚愕する妹を他所にピッ!と元気に手のひらを伸ばして2人が挨拶したが、無論忠朝の表情は一層険しさを増した。
「まさか兄上、夢吉ちゃんにりんごを取られた八つ当たりを猿飛さんに…!?」
「え、なにその話気になる」
「儂も!儂にも詳しく聞かせてくれ朱音殿っ」
余計な事を最悪なタイミングで暴露した妹。フゥゥゥ…と深く息を吐いた忠朝がジロリと朱音を見た。
あ、まずい。この場で言っていい事ではなかったと察した瞬間、朱音は駆け出した。
「ご、ごめんなさい兄上〜!」
「じゃあ俺様もドロンしちゃお〜っ」
忠朝の意識が逸れた隙に佐助も腕をくぐり抜けて駆け出した。
一呼吸の後に忠朝も追いかけようとしたが、自分よりも巨体な忠勝に腕をガッチリ掴まれてしまった。どうやら忠勝も忠朝と夢吉のエピソードに興味津々らしい。
「離せ、この、こら!」
「よくやった忠勝!こんな面白そうな話聞かずにはいられないもんな!」
「2人は同じ方向に走って行った……もしかしてまたチャンス到来!?夢吉、協力してくれるよな!」
「キキッ!」
それぞれの目的の為に手を組む生徒達のおかげで朱音と佐助は無事逃亡を果たせそうだ。とはいえ忠朝は元々この学園のスポーツ特待生。数々の癖者に捕まっていようとも掻い潜る素養はあるはず、と気を抜かず小走りを続けている。
「いや〜助かったよ、妹ちゃん」
「猿飛さん」
数瞬先に駆け出していた朱音に追いついた佐助が緩やかに笑っている。
てんやわんやの廊下からかなり離れたし、そろそろ教室へ進路を切り替えてもよいだろうかと思案しながら、先程の経緯を佐助から聞いた。
「なるほど……既に記事にして、兄上を怒らせてしまっていたのですね」
「でへへ…こんなに早くバレちゃうとは。でも本当にこれ以上は書かないから!」
顔を合わせる度に忠朝に絞られるのが効いたのか、頭を掻きながら断言する佐助。怒った兄の執念深さはよく知っている為朱音も苦笑しつつ賛同した。
「そろそろ予鈴も鳴る頃だから教室行かないとね、妹ちゃん行き方わかる?」
「はい、広い学園ですが少しずつ覚えてきています」
「なら良かった。それじゃあね、」
「あの、」
不意に改まった雰囲気で引き止められて佐助は足を止めた。先に速度を緩めていた朱音も立ち止まって、じっと佐助を見詰めてから切り出した。
「わたし、朱音です。名前、」
知っているけども。なんて佐助は思ったが今まで名前を呼ぶのを避けてたのもまた事実。
どうにも匙加減が難しいんだよなぁ、と心の中だけで佐助はぼやく。
「……そうだったね。じゃあまた会った時はよろしくね、朱音」
「え?」
「冗談冗談。朱音ちゃん。さ、遅れない内に戻ろう」