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「ま、まだです…!まだちゃんと話せてないのに…!」
上田城を取り戻してもまだまだ城内は状況確認や修繕で行き交う人々で騒がしく、一人だけ休んでいることなど出来なかった。
意地で目を覚まし身体を起こした朱音を見るや否や近くにいた兵士が落ち着かせようと駆け寄ってきた。
「まだ動いてはいけません朱音さん!あなたは我々を庇って深手を負ってるんです!」
制止の声も聞かず、朱音は必死に辺りを見回す。既に夕闇に染まりかけており、最後に彼と話した時より見通しが悪い。
一歩踏み出すと、背中に鋭い痛みが走った。味方を逃がすのに専念していた時に飛ばされて打ち付けた所だろう。今回で一番の重症箇所だ。
だがお陰で安静にしていても背中には痛みが残り、浅く眠って早く目覚められた。
手遅れになる前にもう一度彼に会いたい。話がしたい。
「申し訳ありません…!」
膝下に重心を落とし、取り抑えようとしていた兵を躱すと朱音は駆け出した。
*
ひと段落ついた所で、敵に占拠つつも一人城に留まり味方の退路誘導に努めてくれた彼女の元へ足を運んだが、間が悪く怪我を厭わず駆け出していってしまった後だった。
そんな報告を受け、幸村は深く息を吐いた。相変わらず無茶な身体の酷使の有り様に、心配せずにはいられない。
目の前の困ってる人を放っておけない質。薩摩の地でもそうだった。過去の縁を目指していたはずなのに、そばに居る人々の安否を重視し留まる選択をした。
どこまでも他人の為に力を奮う。それは幸村自身にも当て嵌るが故に、止めても無駄という事も分かる。しかしやはり見守る側からしたらたまったものではない。
「どこへ行ったかわからぬか?」
「いえ……ただ、『まだ話せていない』と言っておられました」
「話……?一体誰と……、」
一人心当たりがあった。
敵軍は撤退済み、ならば今この城に居る味方の誰かだ。己が城へ踏み出した頃には気を失っていたというのなら、それより前に城内で行動していた人物。
そして彼女の行方を尋ねた時の、あの歯切れの悪い表情を思い出した。
「何か、あったのだろうな……」
此度、己の不甲斐なさを身をもって奮戦して埋め合わせてくれた二人の人物。
幸村は表情を曇らせるが、今は城の修繕が最優先。何より部下の前でいつまでも燻った姿を見せていてはならないと、キッと表情を引き締めた。