3.猿と
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「お帰りなさい、お祭りお兄さん」
「へっへ〜…ただいま。さて、話を聞かせてくれるかい?」
唐突かつ強引な提案に従うことにした佐助と朱音が占い同好会の部室を出て暫くすると、面談とやらに駆け出していった慶次が戻ってきた。
彼の方便を察していた鶴姫は笑顔で迎えた。
「実はあのお二人が矢に触れた瞬間、キラキラ〜って矢の周りが光って見えたんです!そう小さな炎…灯(ともしび)みたいに優しい光でした!私もこんなの初めてで!きっとあのお二人は…」
「ほっほう〜なるほどねぇ!」
「『過去』と『恋』の強い相……どんな事があったのでしょう!」
「へぇ、朱音の運勢、そんなにすごいやつだったのかい?」
「そうなんですよ!きっと人生を大きく変えてしまうくらいの!こんなに強い相は中々いませんよ!」
「ぃぃいいなぁ〜!!俺もそんな大恋愛してみたい、見守りたい!!」
じたじたと二人してその場で身悶え始めてしまった。
が、はたりと慶次は動きを止めた。
「や、でも……あの二人、多分この学園で初めて会ったと思うんだよなぁ…?」
「え?」
*
「大丈夫?とりあえず正門まで送るよ」
成り行きで学内取材に送り出され、困惑する朱音を気遣って佐助が足を止めた。
確かにこの先輩と話すのは転校初日以来だし、話す事が特段あるわけでもない。部外者かつ転校生の相手をしながら佐助も取材が捗るわけがないだろうと朱音は考えていた。
「いいえ、大丈夫です。帰り道は覚えましたから」
「……そう?何だか悪いね、占いも邪魔しちゃったし、」
「こちらこそです。取材、頑張ってくださいね」
周りが意図しようと所詮現実はこんなものだ。両者ともさっぱりと別れを告げる。会釈して引き返そうとしていた朱音の足元から声がした。
「キ!キキー!」
「夢吉ちゃん…!学園にいたのですね!慶次は?はぐれてしまいましたか?」
これまた昔馴染みの小さなお猿を両手で抱き上げると、肩に飛び移ってきた。頬ずりまでしてくれて、久しぶりに会った夢吉も朱音の事を覚えていてくれたようだ。
「ああ、風来坊のお供。生徒指導に怒られちまうからって、いつもこっそり懐や机に隠してるらしいよ」
事情を知っていた佐助の言葉に納得する。
「さっき……部室を飛び出した時に置いてかれてしまったんですかね、慶次ったら相変わらずです。困ったお友達ですね〜」
「キキィ〜」
もう、と頬を膨らましながら真剣に夢吉とうんうん頷き合う朱音に、思わず佐助は吹き出してしまった。
意外そうな視線を浴びてしまったが、出てしまったリアクションは取り消せはしない。
「あ、いや、ごめん…」
「猿飛さん、もしかして夢吉ちゃんお好きですか…?」
「え、ええっと…」
「それでしたら、慶次にお届けに行きますか?」
手のひらに夢吉を移した朱音に差し出されたが、佐助は反応に困っているようだ。すると夢吉はぴょいと佐助の肩に移り、彼が首から下げていた一眼レフカメラに飛びついてしまった。
「あ!これは触っちゃダメ!おもちゃじゃないっつーの!」
佐助がカメラを守ろうとするが身体のあちこちを素早く逃げ回る夢吉に翻弄され、その場をぐるぐる回っている。
慌てて朱音が夢吉を回収したものの、なおも夢吉は佐助のカメラにご執心のようで情熱的な視線を送っている。
「やっぱ君が風来坊へ届けてくれる…?」
「そ、そうですね……その、面談室ってどちらですか…?」
「あ、ああ〜そうだよね。ちょっと慣れてないと分かりにくい場所かも」
夢吉との格闘で乱れたシャツを直しながら佐助は面談室の場所を思い出す。本当に慶次がそこへ行ったのかも怪しい所だが。
「案内するよ」
「そんな、猿飛さんは取材があるでしょう?」
「別にいいよ、締切が近いわけでもないし。そうだねぇ、じゃあ道中 君のこと教えてよ」
「わ、わたし?」
「今年度から押しの強い後輩が出来て判明した忠朝サンのオモシロな一面、俺様も興味あるんだよね〜。それも聞きがてらにさ。あ、もちろんこういうのはもう記事にはしないから!」
小さな支援者のお陰で、気も少し緩んだのだろうか。
今日見てきた中で一番の、どこか緊張が解けたような笑顔を目にした朱音は深く考える間もなく佐助の提案に頷いていた。