3.猿と
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※戦国軸の物語が暫く続きます。
*
「聞かせてもらうよ。なぜ城を取られている」
静かな声色が低く紡がれる。
険しい表情を浮かべる佐助が上田城主たるはずの幸村を睨みつけた。
先日負傷したと報を受けたばかりの伊達政宗が進軍しており、更にはこの上田城を占拠したという情報を得ると佐助は何ふり構わず帰路を急いだ。
「情報を求め、南下した隙に…」
「情報、だと?」
幸村が城に留まらず独断で兵を進めていたことも佐助はこの時知った。いつまでも戻らない佐助はじめとする忍隊を心配したが故の行動だったが、その結果は一国の主として散々たるものだ。
「馬鹿野郎!」
理由を聞いた佐助は耐えきれず幸村の頬を打った。
何が心配だ、こんな状況下で忍の安否を気にして城を放り出す武将がどこにいる。
「そんな理由で城を開けたってのか…!その挙句の果てがこの有様だ」
怒りを顕にする佐助に幸村は言葉を詰まらせその場に崩折れたが、間髪入れずに佐助は幸村の肩を掴んで諭す。
「いいか。命の価値は平等じゃないんだ。あんたも子どもじゃないんなら、いい加減学べ!」
忍は一つの命令の為に百の命を捨てる。本来は使い捨ての存在だ。だが民を率いる国主は違う。その命と判断は何より重く、ひとつでも誤れば千の民の命を失わせる事だって有り得る。
「その重さをアンタはちゃんと自覚して、行動しなきゃならなかったはずだろ!」
俯いたままの幸村は拳を握りしめ嗚咽を零す。身体を震わせ軽率な判断をした事を心から悔いているようだ。だが悔いるだけでは現実は変わらない。佐助は直ぐさま上田城の偵察へ向かおうとした。
「ゆ、幸村様…!」
土埃に塗れた数人の兵が駆け寄ってきた。
彼等が上田城の留守を任されていた者達であると気づき幸村は顔を上げた。
「、無事であったか!そなたら…!」
「はい、我々は、何とか……!」
近づくと、どの者にも真新しい傷が見える。少ない手勢で攻め入って来た伊達軍に抵抗してくれていたのだろう。息も整わぬまま状況の報告に努めている。するとその中から1人の少年が倒れ込むように前に出た。装束の上からでもわかるほど鮮血に染まり、血の気の失せた小助だった。
「申し訳ございません、幸村様…!その、まだ中に……!」
「小助、よい!無理に喋ってはならぬ!」
「俺達の逃げ道を作ってもらって……!一刻も早く、幸村様に城内の状況を報告できるようにって ……朱音ちゃんが!」
「なッ!ならば、朱音は今も城内に…!?」
「……ッ!」
息も絶え絶えの部下の口から 甲斐から同行し身を寄せていた少女の名が出た。それも戦いの渦中に留まっているという。
既に全ての門には伊達軍兵が隈なく立ちはだかっており、偵察もままならぬまま突っ込むのは危険だ。
それでもこれ以上立ち止まっては居られない。そう考える間もなく佐助は単身駆け出していった。
*
気配を消すべく息を整えようとするが、簡単には叶わない。
せめて気づかれないようにと敵方の目に留まりにくい木陰で身体を丸めた。
呼吸が落ち着いたらまた仕掛けよう。幸村達が戻ってくるまで少しでも戦力を削る事が今の己に出来る務めだ。
右手の骸刀を握りしめながら敵の気配を読もうと聴覚に集中する朱音。
人を護り、逃がすのは得意とするが、自ら切り込み敵陣を崩す経験はこれまで無かったが故に手探りにならざるを得ない。持久力のない身体を上手く繰るには、身を隠しながら時間をかけて攻める他ない。
ふと、新たに複数の乱れた足音が耳に入った。こっそり身を乗り出して様子を伺うと、まだ取り残されていた上田城兵が伊達兵に追いかけられていた。
3~4人程の伊達兵達が己が隠れている木陰を通り過ぎる頃に朱音は音を立てずに後ろから飛び出した。応援を呼ばれないよう素早く、背中側から確実に一人一撃で意識を奪った。
「南側の水堀の抜け道を使って脱出してください」
「あ、ああ……!」
助け出した彼にはまだ伊達兵に目をつけられていない通路を伝え、そのまま脱出してもらった。
この場で新たに敵を撃退してしまった以上ここには留まれない。自らの疲労と負傷に構う余裕などない。見つからぬよう、朱音はまた息を殺して駆け出した。
*
「聞かせてもらうよ。なぜ城を取られている」
静かな声色が低く紡がれる。
険しい表情を浮かべる佐助が上田城主たるはずの幸村を睨みつけた。
先日負傷したと報を受けたばかりの伊達政宗が進軍しており、更にはこの上田城を占拠したという情報を得ると佐助は何ふり構わず帰路を急いだ。
「情報を求め、南下した隙に…」
「情報、だと?」
幸村が城に留まらず独断で兵を進めていたことも佐助はこの時知った。いつまでも戻らない佐助はじめとする忍隊を心配したが故の行動だったが、その結果は一国の主として散々たるものだ。
「馬鹿野郎!」
理由を聞いた佐助は耐えきれず幸村の頬を打った。
何が心配だ、こんな状況下で忍の安否を気にして城を放り出す武将がどこにいる。
「そんな理由で城を開けたってのか…!その挙句の果てがこの有様だ」
怒りを顕にする佐助に幸村は言葉を詰まらせその場に崩折れたが、間髪入れずに佐助は幸村の肩を掴んで諭す。
「いいか。命の価値は平等じゃないんだ。あんたも子どもじゃないんなら、いい加減学べ!」
忍は一つの命令の為に百の命を捨てる。本来は使い捨ての存在だ。だが民を率いる国主は違う。その命と判断は何より重く、ひとつでも誤れば千の民の命を失わせる事だって有り得る。
「その重さをアンタはちゃんと自覚して、行動しなきゃならなかったはずだろ!」
俯いたままの幸村は拳を握りしめ嗚咽を零す。身体を震わせ軽率な判断をした事を心から悔いているようだ。だが悔いるだけでは現実は変わらない。佐助は直ぐさま上田城の偵察へ向かおうとした。
「ゆ、幸村様…!」
土埃に塗れた数人の兵が駆け寄ってきた。
彼等が上田城の留守を任されていた者達であると気づき幸村は顔を上げた。
「、無事であったか!そなたら…!」
「はい、我々は、何とか……!」
近づくと、どの者にも真新しい傷が見える。少ない手勢で攻め入って来た伊達軍に抵抗してくれていたのだろう。息も整わぬまま状況の報告に努めている。するとその中から1人の少年が倒れ込むように前に出た。装束の上からでもわかるほど鮮血に染まり、血の気の失せた小助だった。
「申し訳ございません、幸村様…!その、まだ中に……!」
「小助、よい!無理に喋ってはならぬ!」
「俺達の逃げ道を作ってもらって……!一刻も早く、幸村様に城内の状況を報告できるようにって ……朱音ちゃんが!」
「なッ!ならば、朱音は今も城内に…!?」
「……ッ!」
息も絶え絶えの部下の口から 甲斐から同行し身を寄せていた少女の名が出た。それも戦いの渦中に留まっているという。
既に全ての門には伊達軍兵が隈なく立ちはだかっており、偵察もままならぬまま突っ込むのは危険だ。
それでもこれ以上立ち止まっては居られない。そう考える間もなく佐助は単身駆け出していった。
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気配を消すべく息を整えようとするが、簡単には叶わない。
せめて気づかれないようにと敵方の目に留まりにくい木陰で身体を丸めた。
呼吸が落ち着いたらまた仕掛けよう。幸村達が戻ってくるまで少しでも戦力を削る事が今の己に出来る務めだ。
右手の骸刀を握りしめながら敵の気配を読もうと聴覚に集中する朱音。
人を護り、逃がすのは得意とするが、自ら切り込み敵陣を崩す経験はこれまで無かったが故に手探りにならざるを得ない。持久力のない身体を上手く繰るには、身を隠しながら時間をかけて攻める他ない。
ふと、新たに複数の乱れた足音が耳に入った。こっそり身を乗り出して様子を伺うと、まだ取り残されていた上田城兵が伊達兵に追いかけられていた。
3~4人程の伊達兵達が己が隠れている木陰を通り過ぎる頃に朱音は音を立てずに後ろから飛び出した。応援を呼ばれないよう素早く、背中側から確実に一人一撃で意識を奪った。
「南側の水堀の抜け道を使って脱出してください」
「あ、ああ……!」
助け出した彼にはまだ伊達兵に目をつけられていない通路を伝え、そのまま脱出してもらった。
この場で新たに敵を撃退してしまった以上ここには留まれない。自らの疲労と負傷に構う余裕などない。見つからぬよう、朱音はまた息を殺して駆け出した。