2.再び
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泣いていた。
幼さの影を大きく残したまま、当時と変わらぬ感情を向けられた。
命をかけてでも護りたい。こいつを護る為に戦うとかつては誓ったというのに。
俺は何をした?言葉を切り捨て、刀を振るい、締め上げて…。
本多忠朝は少々乱暴に首を振った。
先日の薩摩での妹との再会の回想を振り払う為だ。
自ら選び行動した。後悔するはずがないのに、あの時の少女の表情がすっかり脳裏に焼き付いてしまっていた。
それよりも今は優先すべき事があるのだ。個人的な事情で物思いに耽っている場合ではない。気持ちを切り替えるべく忠朝は城内を速足に進む。
軍議室に入ると家康が大きく広げられた日ノ本の地図と睨めっこをしていた。
「三成……いや、豊臣勢の動向がわかった。どうやら儂等と対抗すべく戦力を集めようとしているみたいだ」
やはり対話による解決は叶わなかったか。双方の性格、特に石田三成の気性を知る者ならば誰しも予想できた結果だった。
彼が絶対君主と仰いでいた豊臣秀吉は小田原にて奥州の伊達政宗に討たれた。天下の為と憎しみや恐怖で渦巻く現状を終わらせるべく、今一度旗を挙げたのが忠朝の目の前にいる徳川家康である。
「このまま俺達も諸大名への呼びかけは続けるのだろう」
「ああ。1人でも多く儂の唱える絆に賛同してもらうためにも」
「もし石田方が戦力を回復させたらどうする。衝突することも有り得るぞ」
忠朝の指摘を受け家康は押し黙って表情を曇らせた。
家康と三成が豊臣傘下で過ごす内に親しくしていた事は忠朝も知っていた。任務で行動を共にし、時には相談や些細な言い合いをしたりと年齢も近かった二人は友人と表現しても差し支えなかっただろう。
「儂や独眼竜は、真っ先に狙われるだろうな」
君主への冒涜、裏切り。
何事に対しても直向きに取り組む三成にとって、政宗も親交があった家康も今となっては到底許し難い存在に成り果てているに違いない。
「……すっかりお前の事をどうこう言える立場ではなくなってしまったな。決断し進むことはやはり難しい。もし三成と雌雄を決しなくてはならない時が来たら……今考えてたみただけでも恐ろしいよ」
「後悔しているのか。豊臣から離反した事」
「いや、そうは思っていない。儂の思い描いた天下を実現する為にはいつか必要な事だったんだ。三成達から恨まれる事も覚悟していた、はずなんだが……」
人の意志は存外脆く、容易く移ろう。それは人として生きているが故、また生き延びる為。進む為かそれとも戻りたいが為か。
「時間をかけてでも備えろ。お前の志は間違っていない」
「忠朝、」
進みたいのであれば、あるいは逃げたくないのであれば心を固める他ない。望みのために突き放すもの達への思いもまた同じ。
この乱世に於いて痛みなく進める者などきっと存在しないのだ。
「後悔は一生の呪いになる」
「……そうだな、ありがとう」
今となっては兄弟ように慕う臣下であるが、忠朝は出会った時から自身に対する呪いに深く沈んでいた。それでも長年見守り続けてきてくれたが故の言葉であると家康はよく理解している。