2.再び
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「すごい……大きなグラウンドだとは思っていましたが、部活動もこんなにあるなんて」
婆娑羅学園のグラウンドは、朱音が前に通っていた学校よりずっと大きく広い。あちこちでくまなく運動部が活動しており、むしろまだまだ面積が足りない印象を受けた。
「ご明察。実際足りてないんだよ。有名どころだと野球部とサッカー部がよくグラウンドの使用権をかけて喧嘩しててねぇ」
「へぇ……どちらの部も大きな大会で入賞するくらい強いと聞いていますが、大変なんですねぇ」
本日も転入生の学園案内を買って出てくれた慶次に連れられ、授業後にグラウンドの見学に来ている。
まだまだ陽射しの強い9月。学園の周りは自然に囲まれていて、バックネットの後ろには木々の生い茂る山が見える。場所さえ確保できれば伸び伸びと運動できる環境だ。
「ところで慶次はどこの部に入っているんですか?」
「どこでもあるし、どこでもないってところかな!」
「え?」
「俺さ 色んな部活に顔出すの好きでさ〜。応援だったり人手不足のとこなら助っ人したり!入学してからずっとそんな感じでいたら、入部届どこにも出してないままここまで来ちまったんだよ~」
そんな事も可能なのか、と唖然とする朱音に構わず慶次は楽しそうに話している。
幼い頃から人懐っこく、また人に好かれる性格をしていた慶次は、高校生になってもその社交性は健在のようだ。
小さい頃は彼に手を引かれて近所のあちこちを冒険したものだ。ちょうどこの放課後もそんな感じだ。
就学前に引っ越してしまったため長らく会えていなかったが、相変わらずのようで安心した。
「今日は野球部が使ってるんだねぇ」
「サッカー部はどうしてるんですか?」
「使えない日は校内で筋トレだったかなぁ、裏山で走り込みしてるってのも聞いたこともある」
「なるほど、抜け目のない体力作りですね」
「野球部はグラウンド使えない日は畑のお世話してるんだぜ!」
「へぇ、園芸にも力を入れてるんですか」
「園芸というよか野球部に畑仕事好きな人がいてさ。ほら、あっちの方見える?」
カキン、カキーンと金属バットの打ち込む音を聞きながら部活事情を聞く。
慶次の指さした方向には植え込み……の更に奥に校庭にしては色濃い茶色の地面が見えた。遠目で見ても、なだらかでしっかり手入れされている様子がわかる。
「もしかして……結構本格的な畑ですか?」
「多分ね、あの片倉さんだから……」
やれやれといった様子で慶次が教えてくれる傍ら、朱音の耳に何かの風音が割り込んできた。
そちらを確認すると慌てた様子で慶次に詰め寄った。
「慶次、これ脱いで!」
「えっいきなり何!?ってイヤァ〜!!」
あ〜れ〜っなんて声を上げる慶次を他所に朱音は羽織らずに腰元に巻かれていた彼の学ランの上着を引っぺがした。
飛来物を視認しながら少し横に移動するとまた慶次の身体に当たってしまった。しかし謝ってる時間はない、と構わずその場で跳躍した。
「え、あたた!ほんとに何だい!?ちょっ、」
パンッ!と音が立つと朱音も上に伸ばしていた両腕を降ろした。
慶次の学ランをミットに見立てて、飛んできた硬式ボールを掴まえていた。
「……だ、大暴投?」
「バッティング練習をしているようなのでファールボールかと。すみません、学ラン洗ってお返しします」
ボール模様の土埃が付いた慶次の学ラン。軽く払ったものの細かな砂が落としきれない。
避ける事もできたのだがグラウンド全体で活動している生徒も多く、誰かに当たってしまうより受け止めようと判断していた。
「いいよ全然こんなの。それよりやっぱり良い直感してるんだねぇ」
「いえいえ、運が良かっただけです」
「Sorry.怪我してねぇか?」
二人の所へ野球ユニフォームを着た生徒が駆け寄ってきた。
焦った様子で見つめてきた彼は右目に鉛で出来た、刀の鐔のような形の眼帯をしていた。
「ああ、大丈夫だよ。この子が受け止めてくれたんだ」
「そうか……って見ねぇ顔だな。ついに恋人作ったのか?風来坊」
「ま、まさか!俺は孫市せんせーひと筋なの!この子は幼馴染で昨日転入してきた、」
「原朱音です」
眼帯の彼にボールを返しながら朱音は挨拶をすると、彼も得心がいったような表情を浮かべた。
「ああ、真田のクラスに来た噂の転入生ってのがアンタか。俺は伊達政宗だ、よろしくな。にしても良い運動神経してるな」
「だろ~、昔から器用な子なんだよ!」
「で、アンタは押しのけられてすっ転んでた訳か。色男の冠のわりに格好つかねぇな」
「ま、まぁまぁ…!」
そこそこの速さの打球を学ランミットで受け止めた風来坊の幼馴染は両者のやり取りが面白いのか微笑んでいる。
「というわけだ、ドジな風来坊を見といてやってくれ、転入生」
「はい、よく承知しております」
「ha!ノリが良いな、また話そうぜ。それじゃあ俺は戻るぜ。迷惑掛けたな」
「俺ドジじゃないって〜!でも頑張れよ〜!」
ひらひらと手を振りながらボールを持って政宗はまた野球部の練習スペースへ駆けていった。