2.再び
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何者でもない死に損ない。
だからどこへでも行けた。孤独を選ぶ代わりに一人で何だってできた。
けれど今となってはそんな自分とはもう違う。
助けてくれて、受け入れてくれた人達がいた。再び生まれた縁は容易く切れぬであろうと。
豊臣軍が潰えたその後、武田軍は深刻な事態を迎えた。
大将たる武田信玄が体調を崩す事が増え、床に臥しがちになったのだ。
天下の趨勢が再び危うき今、この事は他国に漏らさないよう努めているが、いつまで持つかわからない。敵対国とってはまたとない好機に違いない。
故に武田の魂は最も近しい臣下へ。
真田幸村に託された。
武田軍総大将・真田幸村。
「お館様……この幸村、未だ未熟の途なれど力の限り武田を護り、我が槍にて乱世を貫き抜く所存!」
刻一刻と情勢は移り変わる。いつかは幸村に武田の未来を託すつもりであったとしても、このタイミングになってしまったのは決して幸運とはいえまい。
そんな主を補佐すべく佐助はじめ忍隊は各地の情報収集に忙しなく駆け回る。
「食欲の低下、それに咳も出ておいでです。お薬も服用してみえますが……すぐに回復は難しいかもしれない、と」
お館様の知らせを聞き、いつまでも部屋に留まっている場合ではない。お館様の私室に向かった朱音は、ちょうど廊下で女中のひかりに出会った。
母親の代から武田に仕えているという彼女は憂いながらも、慣れた様子で看病をこなしているようだ。
「信玄様なら大丈夫ですわ、強かなお方ですから。それでも暫くは療養に専念されるでしょうから、その間は幸村様が………と伺っておりますわ。ところで朱音様、あなた様もまだ顔色が優れないようにお見受けしますが…」
「いいえ、それよりも…お館様に幸村、武田の皆様の事が気になって……」
記憶を失った状態でも受け入れ、良くしてくれた武田軍の皆には言い表せない程の恩がある。それ故に今回の事態へ危惧や不安が拭えずにいる。武田の安寧の為に何か出来ることはないだろうか。いただいた恩を少しでも報いたい、と。
*
後日、武田軍宛に改めて天下統一へ名乗り出た徳川家康から書状が届いた。
主な内容は和平の交渉がしたいとの事だった。
どうやらこの申し出は武田軍に対してだけでなく日ノ本諸国の戦国大名に呼びかけられており、目的は同盟関係を結ぶ事かそれとも自らが天下を纏めあげると宣言した以上は遠回しに傘下に入る事を求められているのか。
「豊臣崩壊から名乗りあげた徳川への諸国の反応は今のところ賛否両論。それと別で豊臣残党勢が旗を上げる噂も出てる。見事に二分しそうな感じよ」
「天下泰平に掛ける想いはどの軍にとっても同じはず……それ故に、武田が徳川あるいは豊臣に加担することはいたずらに対立を激化させる要因にもなり得るやもしれぬ」
「……なるほど、中立も視野に入れると」
「見定めたい。己の信念、武田の未来にとって正しい選択をするためにも、まずは現状を正しく見定めたいのだ。引き続き各地の情報収集を頼めるか、佐助」
「勿論全力でお勤めさせていただくよ、新米大将」
「むむ、未熟たるは十分承知しておる!新米と言うなっ!」
「へへっ じゃあ早速行ってき……」
「幸村様!」
部屋を出ようと佐助が腰を上げようとしたところで襖が開かれた。金色の髪色を持つ忍の少年・小助が立っていた。
『先輩』である佐助を無意識にも真似ているのか普段は親しみやすく軽い雰囲気を纏っているのだが、今は少し険しい表情を浮かべている。
「どうした、小助」
「……北方の偵察隊からの報告です」
「奥州の独眼竜が豊臣残党から襲撃を受け、負傷したそうです」