1.時期外れのはじまり
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教えてもらった場所まで辿り着き、少し離れた壁に隠れつつ ちらっと様子を窺ってみた。
時期外れの転入初日、授業後。
慶次から色々教えてもらって知ったのだが、この婆娑羅学園には朱音にとっても昔馴染みの相手がまだまだいるようだ。
ということで彼に会うのは幼い頃以来だ。久しぶりに会えると分かると、朱音は真っ先にここに向かった。
気持ちが浮ついて落ち着きなく部屋の入り口の様子を確認していると、やがて目的の人物が向かってくるのが見えた。彼も随分と背が伸びて、体つきも逞しいという表現では足りないほど屈強になっていた。でも顔つきは昔と変わっておらず直ぐに本人とわかった。居ても立ってもいられず朱音はひょいと首を覗かせた。
途端に目が合うと少し驚いた表情になった。その様子なら、相手も無事覚えていてくれているのだろう。
「ひーでよーしさんっ」
「………久しい顔と思えば、まだかくれんぼが好きなのか、ろく」
いたずらっぽく笑う朱音に呆れながら、秀吉も穏やかに微笑んだ。
「懐かしい呼び方です。お久しぶりです」
「噂で聞いていた転入生はお前の事だったか」
「学年が違うのにご存知でしたか?」
「これでも生徒会長なのでな。学園の情報には聡い方だ」
生徒会室の立て札を指差しながら説明され、そうだったと朱音も納得する。
「秀吉さんのこと、慶次に教えてもらったんです。おねねさんは別の学校に通ってるって…」
「あやつは北野女子高だな」
「そ、そこって名門で全寮制の…?秀吉さん、ちゃんとおねねさんとお会いできてますか!?連絡は…!」
「容易く他人の事情に踏み込んで来るでないわ」
「いたたっ」
ぽかん、と顔を背けながら放たれた秀吉の拳を頭にいただいてしまった。
昔から秀吉と慶次の傍らにいた女性・ねねの初恋事情は幼い頃の朱音にとっては鮮明に色濃く残ってしまっていたのだ。
「全く。慶次のようだな」
「む、全ての恋バナに食いついてるわけではありませんよ。秀吉さんとおねねさんだからです」
「……そうはっきり言ってくれるな」
「それで、それで、今はどうなのですか!?」
再会を喜ぶ間もなく早速想い人の話になってしまい気恥しさを覚える秀吉だが、何ひとつ変わらぬ昔馴染みの様子に安心する。
片やはやく教えろと言わんばかりに昔馴染みの少女は両の掌を握って目を輝かせていると、
「生徒会室に入らないのかい、秀吉」
秀吉の背後から聞き慣れない声がした。
そちらへ視線を向けると学園指定のものでは無さそうな白い学ランを纏った生徒がやって来た所だった。
不思議そうに朱音がその生徒を眺めていると相手も怪訝そうに視線を寄越して来た。
「……新しい執行部員、ではなさそうだけど」
「俺の昔馴染みだ。今日から学園に転入してきたのだ」
「へぇ〜、それで君が珍しく僕以外の人とお喋りに花を咲かせていたと」
チクリと。彼の視線や言葉が朱音の顔やら心臓へ刺さった気がした。
にっこり微笑みかけてくれてはいるのだが、本心は微塵も笑っていない事は察した。
「俺は人見知りするような性格ではないぞ、半兵衛よ」
「まぁ、うん、それはわかってるんだけどもね」
秀吉に呼びかけられた半兵衛…竹中半兵衛は表面上はニコニコしながら曖昧に返した。
俗に言う『昔馴染みだかなんだか知らないけどぼくの秀吉に気安く話しかけないでくれたまえ』とプンプン嫉妬を露わにしていたのだが、朱音はさておき秀吉には勘づかれずに済んだらしい。
「僕は生徒会副会長の竹中半兵衛だよ。よろしくね、転入生さん」
社交辞令のお手本とはこの事だ。
顔だけは笑顔の半兵衛に、こちらこそと、ぎこちない笑顔だけ返し、朱音は引き返す事にした。
「また気軽に来るといい。俺は放課後、基本的にここにいる」
状況を理解してないらしい秀吉は緩やかに片手を振ってくれた。が、
「ほらっ、秀吉もう入るよ!今日も報告や相談したい事が山ほどあるんだからねっ」
半兵衛に腕を引かれて生徒会室に入っていってしまった。
おねねとの進展は聞き出せないまま本日は撤退するしかなかった。