1.時期外れのはじまり
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「では、真田くんは中学の部活では剣道をなさっていたのですね」
「然り。その傍ら、学外ではサッカーをやっていたが故、高校からはサッカー部に入った次第にござる」
正門で出会った二人の内、朱音は真田幸村と名乗った生徒と同じクラスであった。朝一番にクラスメイトの前で緊張しいの自己紹介を終え、休み時間にこうして彼と話をする頃には気持ちも大分落ち着いた。
何でも彼は中学の頃は剣道部に所属し、当時他校との合同練習で兄・忠朝と面識があったとのこと。そしてその時に訪れた中学で朱音本人とも会ったことがあると告げられた。
「……あ、兄上の水筒を届けに行った時…!」
「然様、休憩中に武道場から外に出た折、偶然そなたから忠朝殿に渡すように受け取ったのが某でございました」
「そうだったのですね…、よく覚えておられましたね、」
「己でも驚いておりまする。そう、朱音殿はあの頃、髪が短く…」
「本当によく覚えておいでですね…!?」
「まっこと、我ながら不思議でござる…」
真剣に考え込むような表情の幸村を朱音はじっと見つめてみる。確かに合同練習の日に兄の忘れ物を届けに学校へ行き、武道場の中まで入らず入口付近にいた誰かに渡したことは覚えている。しかし、何年も跨いで覚えていられるものなのだろうかとやはり疑問に思う。
「ま、まさか、わたし、その日すごく酷い寝癖でもついてましたか!?」
「む、い、いや、そのような事は…!」
記憶に残るには何かしらのインパクトがあるはず。思い至るは毎日のように格闘するこの癖毛である。短い髪なら押さえつけられるだろうと中学の頃は切っていたものの、結局は軽い分跳ねてしまうので、短くても長くても変わらないと結論に至った経緯がある。
『その髪、』
『髪?……あ、まさか、おかしなはね方してますか?』
『いえ、……伸ばされぬのでござるか?』
(あのやり取りも覚えておられぬようだが、………まことに、何故、俺はあのような事を言ったのだろう)
(やはり伸ばしている方が、そなたは似合う)
(………やはり、とは?)
*
「ほんとに会えた――――!朱音、ひさしぶり―――!」
午前の授業を滞りなく終え、お昼休みに入った瞬間、教室に飛び込んできたのは懐かしい人物であった。
「慶次!」
「クラスはどうだい?なじめそうかい?授業はわかる?あ、いや、俺、勉強はそんなにだから教えるのは無理だけど…」
矢継ぎ早に訊ねてくる相変わらずの幼馴染に、朱音は思わず噴き出してしまう。
「大丈夫です、心配してくれてありがとう」
「ほんとかい!?何か困ったことがあったらすぐに俺に言ってくれよ!?」
心配そうにズズイと顔を近づけてくる彼を宥めようと額に手を乗せてみるが、思いの外腕を伸ばす必要があって驚いてしまった。
「……大きくなりましたね、慶次」
「そりゃ中学から高校は伸び盛りだからな!はい、お弁当持って朱音!」
勢いに押されるまま、持参した弁当を手に持つと、素早く後ろに回り込んだ慶次によって、一気に朱音の身体が持ち上げられた。
グン、と急に高くなった視界に大慌てだ。
「な、なに慶次!?」
「中庭行こうよ!利とまつ姉ちゃん、いつもそこで一緒に食べてるんだ!二人も朱音に会いたいって言ってるよ!」
「事情はわかりましたが、わたしが持ち上げられる理由は!?」
「こっちのがはやいだろ!」
「―――ま、前田殿!何をされておるのだ!」
騒ぎ立ててる内にクラスメイトからの視線を盛大に集めながら朱音を抱えて教室を出ようとしていた慶次へ、一連を見ていた幸村が耐えきれず声をあげた。
慶次がきょとんとしながら赤面している幸村を見るや否や、すぐにこの上なく楽しそうな笑みを浮かべた。
「あらら、初日から硬派で初なユッキーに惚れられちまったのかい?やるねぇ朱音」
「なッ、ほ、惚れ…!?」
昔から何も変わってない恋バナ好きの慶次のいう事。そうですか、と朱音は流そうと思っていたのだか、顔をさらに赤らめた幸村が慶次に噛みつかん勢いで睨みつけていた。どうやら素直な反応をする性格らしい。そして慶次はそういう人物こそとことん弄り倒すのが趣味でもあるため、朱音は小さくため息をついた。
「某はただ!公然の場で無遠慮に女人を抱える事を…!」
「いいねぇいいねぇ!ユッキーも恋せよ〜!」
「~~~~~~ッ、前田殿!いい加減になされよッ!」
「おっと、危ないだろ!朱音も抱えてるんだから。今日は借りるよ〜!」
中庭の2人を待たせないようにすべくスッタカターと慶次に抱えられたまま教室から飛び出す事になってしまった。
「フラれたの〜?だーんな」
気の立ってる幸村の後ろから声がした、振り返ると佐助がいた。
「見ておったのか…」
「今日の昼は部活のミーティングあるから迎えに来たんでしょうが。不可抗力だからね」
隣のクラスの風来坊の突拍子のない行動で自分の予定はすっかり忘れていたのか、幸村は不意をつかれたような表情を浮かべた。
相変わらず見てるだけで何考えてるかわかりやすい幼馴染に、佐助はやれやれと微笑みながらため息をついた。