17.目覚めた先へ
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どうやって、時間…いや時空だろうか。それを飛び越えて幼い彼に会いに行ったのかはわからない。
兄が練習試合に他校の中学へ行った日。忘れ物の水筒を届けに朱音も後から追いかけた。その中学の武道場前で、恐らくこの時代の幸村に初めて会って、水筒を届けるよう頼んだ。その後自宅に戻ってから疲れて眠って、その間に見たのがあの木の葉の山の出来事。
あの肌寒さ。そして人肌の温かさ。
夢にしては感覚が現実と変わりなく、目覚めた後も夢の中の出来事として片づけるには寂しさが心を引っ搔いた。
また会いたい。無事に過ごしているか知りたい、時折思い出してはずっとそう思っていた。
記憶の時代では、度々佐助から『幼い頃傍にいてくれた人物』の聞いていた朱音。
その正体は未来の自分であり、過去の自分の想念によって導かれたようだ。
この時代では、記憶の時代と同じ顔、同じ名前、殆ど同じ性格……偶然とは言い難い揃いようだ。
異なるのは生きる世界の世情。今の時代が比較的穏やかであるという事だ。
大きな争いがなく、穏やかに過ごせる日常。
『いつか、争いも殺し合いもない、平和で退屈なくらいの世界で生きたいね、朱音』
『………はい。みんなで』
まるで切り取った都合のいい空想。夢のようだ、と。
「おはよ、朱音。旦那も来てるよ」
ゆっくり目を開けると、眠りに落ちる直前同様、佐助の顔があった。
視線を少しずらすと言われた通り、幸村が課題のノートから顔を上げた所だった。
「おはようござる、朱音殿。お加減は如何でござろうか?」
普段自分が勉強用具を広げている場所で、目覚めるまで待っていたようだ。消しゴムのカスが床に落ちないよう、ミニテーブルの端に集められている。
「さすけ、幸村…」
「ちゃんと覚えててよかった」
絶妙な語りかけ方をする佐助に、思わず朱音は眉を下げて笑ってしまった。
「すみません。折角冬休みに入ったのに…」
「学園からすぐの場所ゆえ、問題ござらぬ。それで昨日は…どうされ申したか?」
某自身も何故だか取り乱してしまったのだが、と申し訳なさそうにも問いかけてくる幸村に、どう答えようかと朱音は佐助の顔を見ながら考える。
「……う~ん、と……後夜祭前に皆さんに言われた通り、ちょっと疲れが溜まってしまっていたのかもしれません…」
「むむ、ならば某も…?しかし、そなたらを見た時、何故あのような……」
「まぁまぁ、結果皆元気にして…ないか朱音は。こうして会えてるからいいじゃない」
「そうですね、」
「むむぅ…?」
腕を組んで唸る幸村には申し訳ないが、不用意に刺激するのは避けたい。暗黙の了解の元、朱音と佐助は全方位に苦し紛れにごまかす方針で一致した。
思い出していないはずなのに、魂の衝動のままに行動した幸村に、改めて朱音は目を細める。
「ありがとう、幸村。えと…、またお見舞いに来てくださって、」
ジャージ姿であるものの、机に向かう幸村は記憶も伴ってどこか懐かしく思える。
時間に追われるなか、地図を広げては肩を並べ、兵法書を何冊も読んだものだ。
「わたしも一緒に課題、やりたいです」
「なりませぬ。朱音殿は体調が快方に向かってからでござる。……やはり、そなたは多少の無理は厭わぬのだな、」
「え?」
「……無論、心配の思いはあれど、そうして無茶をするのはそなたらしい、と……妙に納得してしまうのでござる」
9月からの転校生。共に過ごしたのはまだ3ヶ月程だが、不思議とその気心が知れる。異性という意識以上に親しみを覚えている。
だからこそ、感情的に涙を流していた朱音の気持ちが伝染してしまったのかもしれない、と幸村なりの結論に行き着いたようだ。
「ほんとはやんちゃ盛りだもんね?おふたりとも」
「違いますっ」
「やんちゃとは何だ!子ども扱いするでない!」
合わせ鏡のように噛み付いてくる二人は相変わらずよく似ている。佐助は満更でもない表情を浮かべた。
(ガキみたいで、ところ構わず勝手に突っ走って……でもこっちが影に落っこちそうになったら、馬鹿みたいに追いかけてくる。きっと、どこまでも変わらないんだ。二人も……俺様も、)
平穏な世界に於いて、こうして穏やかに向き合える。
共に生きた存在と他愛の無いやりとりをし、また明日が訪れる。
夢のように都合のいい日常かもしれない。それでも…。
愛おしい。この想いにはそんな表現が相応しいだろう。