17.目覚めた先へ
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「お邪魔致し申す!朱音殿は!?」
サッカー部の午前練を終えた足で、朱音達の家へ幸村は駆け込んだ。玄関のドアを開けたのは忠朝だった。
息を切らし、髪も乱してやって来た幸村。学園から走って来たのだろう、真剣な顔付きで朱音の容態を尋ねている。
忠朝からすれば朱音に関わりがあるとはいえ、妙に距離の近い男二人だ。
学園祭準備がきっかけで仲良くなったようだが、まるで長年の友人のような間柄にも見える。
「自分の部屋にいる。顔見ていけ」
「へ、部屋?朱音殿の!?」
ボッ!と赤面する幸村だが、朱音が休む部屋を教えると、心配が勝ったようですぐに駆け込んだ。
「大事ありませぬか、朱音殿!」
駆け込み一番に声を掛けた幸村だが、人差し指を立てた佐助に制された。
部活は夏に引退していた佐助は朝から朱音の見舞いに来ていたはずだ。佐助の視線を追うと、ベッドで寝息を立てる朱音が目に入った。
目を閉じていても目元が赤く腫れているのがわかる。昨夜ずっと泣いていたのだから無理もない。
「昨日ね、家に帰っても忠朝サンから離れたがらなかったんだって。2人で一晩こたつで過ごしたら熱出ちゃったんだって」
「そうか…、ならば漸く休めておるのだな」
「俺様が寝かし付けときました~」
佐助が得意げに二本指を立てる。もう片方の手には単語帳を持っており、見守りながら受験勉強を進めていたようだ。
「だから起きるまで、しーっね?」
「無論、……それにしてもよかったのか、佐助」
「何が?」
「見舞いに来れたことはありがたいが…お前としてはその、お前ひとりの方が…」
「あっ、そういう事気にしてくれるんだ」
後夜祭中に戻って来た二人は手を…所謂恋人繋ぎをしていた。それを目撃したのは幸村のみであり、例の説明出来ない感情の塊に呑まれている最中にもそういう確信があった。
赤面しながらチラチラと佐助と朱音を交互に見る。思春期の男子高校生らしく、気を遣うべきだっただろうかと悩んでいるようだ。
「いや~流石にご家族のいらっしゃるお家では、ね?」
「……ならばやはり、そなたらは……って、忠朝殿ぉ!?」
気づいた頃にはドアの影から凄まじい表情をした朱音の兄が睨みつけていた。どこから聞いていたのかわからないが、雰囲気からして察したようだ。
今すぐ帰れ、と言いたい気持ちを押し殺してゆっくりと部屋に入って来た。手には食事を乗せたお盆を持っている。
「説明しろ、猿飛」
「……やっぱり、そうなります?いやでも、ほんとに(一線を越えるような事は今は)何もしてないからね!?」
朱音が転校してくる前にパパラッチされた忠朝は、記事を書いた佐助を敵視しているため非常に受け入れ難い事態だ。
とはいえいつかは話さねばなるまい。記憶を取り戻した朱音と話し合ってから、正式に説明した方がいいだろう。
「で、でも妹さんが落ち着いてから改めて…!勝手に話すと怒っちゃうかもしれないから、でしょ?」
「………」
殺意に近しい不快感を露わにする忠朝だが、納得はしたようで、お盆をミニテーブルの上に置いた。
「……お前達の分だ」
朱音のケア用品や食べ易い物を買い出しに行ったついでに、見舞いに来る二人の分の食事も用意してくれていたようだ。
ベーコンと野菜が乗った即席ラーメンだ。出来立ての湯気から覗く艶のある麺が食欲をそそる。だからこそ関係がばれてしまって気まずい一心だ。
「……とにかく、今はこいつが落ち着くのが最優先だ。目が覚めた時に一人だとまた泣かれるかもしれん」
「忠朝サンは居なくていいの?俺様達だけで見ちゃってて…いいの?」
淡々と話して部屋を出ようとする忠朝に佐助が問いかけると、寝不足と疲労と新事実によるイライラが入り混じって、混沌とした視線を寄越された。
「これ以上お前の顔見てたら殴りたくなる……見張ってろ、真田」
「しょ、承知…ッ!」
推定恋人と並んでうわ言を呼んでいた幸村との関係も無論気になるのだが、今は朱音の回復を待つしかない。
しっかり妹煩悩な兄はこれでも結構我慢している。冷静になる為にも二人に任せ、一旦一人になって休む事にした。