17.目覚めた先へ
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「予想通り、だね」
「…………ぅぅ、」
情けなくて目も合わせられない。
毛布にくるまって縮こまる朱音に、佐助は呆れながら微笑んだ。
昨日の学園祭は大成功のまま幕を閉じた。
しかし終盤、もうひとつの運命を思い出した朱音は、中々平常心を取り戻せなかった。後夜祭が終わっても皆と別れるのを惜しみ、兄が無理矢理連れ帰っても今度は兄から一切離れたがらなかった。
日付が変わっても風呂に入ろうとせず、両親と話したいと喚くなど、好き勝手駄々を捏ねられた。けれど普段と明らかに違う様子に忠朝は放って置くことができず、彼なりに宥めようと努めたがそれも上手くいかず、仕方なく短い時間だけ両親に連絡する許可を出した。
泣き腫らした顔を見せれば確実に父は帰国してくる、と忠告すると朱音も事の重大さを理解したようで、涙を必死に堪えながら話した。
学園祭が無事に終わった事。とても楽しかった事。最低限の報告だけしてビデオ通話は終えた。
『なんだか嬉しいなぁ、二人がピッタリ隣に座ってお父さん達とお話してくれるの』
朱音の顔アップを防ぐ為の苦肉の策だったが、両親が喜んでくれたのは幸いだった。
通話を終えた瞬間は落ち着いていたが、暫くするとまた泣き出してしまった。結局力尽きて眠るまで、朱音は忠朝から離れようとせず、兄妹は居間のこたつで一夜を明かした。
「知恵熱だね。それにこたつで一晩寝てれば、そうなるよねぇ」
「だって…っ、」
「ハイハイ、お陰様でこうして今日も会えたわけだし?」
朱音は再び熱を出してしまった。
質の悪い睡眠から覚めてもなお忠朝にひっつき続けたが、流石に一人で見ることに限界を迎えた忠朝が呼び出したのが佐助だ。
風呂に入って買い出しに行く。その間妹を見ていてくれ。そんな旨の連絡を受けてやって来ていた。
以前差し入れを持ってきてくれたこともあったし、家の場所を伝える必要がないから兄は佐助に頼ったんだろうと思った。
「……なんかね、寝言でずっと色んな人の名前呼んでたらしいよ。その中で特に俺様と真田の旦那呼ぶのが多かったからって…」
次点でお父さんと忠朝サンだって。
ベッドの傍らで気まずそうにもヘラ〜っと笑ってみせる佐助に対し、朱音は青ざめた。
「変に思われてしまったでしょうか…、」
「それは今更。あと呼び方ね。色々変わってるから、何かあったのかって忠朝サンに詰め寄られちゃった」
「………すみません、」
「あれはしょうがないよ。フォロー出来る限りはするけど、」
「……さるとびさん」
「え〜〜〜っ、今更??」
「だから呼んでくれなかったのですね、わたしの名前」
「……バレちゃった?」
過去を大切に抱えていたからこその葛藤のひとつ。学園での佐助は朱音の名前を口にする事は殆ど無かった。
「変な気分だったよ。名付けるの手伝ったのに、改めて自己紹介されるんだもん」
「…辛い思いをさせてしまいましたか?」
「ちょっとだけね。でももう平気。でさ、」
スッ、と佐助は身を乗り出して改めて朱音の顔をじっと見詰める。
散々泣きはらした翌日。猛烈に目が痛むが、朱音も見つめ返した。
「忠朝サンは買い出し中。真田の旦那が来るのは午前練が終わってからだから、今二人っきりなワケよ」
「ほんとだ、」
「ちゅーでもしてあげようと思ったのに。これでも受験生なんでね、この風邪っぴき」
「……風邪じゃなくて、疲れからの熱ですもの」
「風邪じゃないから移らないって?」
微々たる動きで頷いた朱音。存外素直な様子に調子を狂わされそうになるが、佐助は持ち直すべくゆっくりと息を吐いて朱音の額に手を乗せた。
「……さすけ、その痕…!」
私服の袖から見えた佐助の右手首には、押さえつけられたような赤い指の痕があった。
昨日記憶巡る中朱音が仇の腕と思い込んで押さえ込んだせいだ。
更に袖を捲れば、上腕にも痕が付いているに違いない。
「すみません、痛かったですよね」
「命懸けだったんだから仕方ないだろ。それに………俺様の為でもあったんじゃない?」
『護る、守る……!』
遺された使命、約束を必ず果たすと。
あの焼き払われた戦場を思い出すと、また涙が零れそうになる。
でもそれを伝えられる。この奇妙な巡り合わせの世界で。
「うん………約束、守りました。幸村と、政宗を護りました…!」
「流石、強かなお姫様は違うね」
「姫はやめて…!それに、さすけが情報をくれたお陰です、」
「それでもね、ありがとう」
横たわったまま朱音を、頭を包み込むように佐助は抱き締めた。
朱音も腕を伸ばし、佐助の首の後ろへ回した。
「また泣いて、」
「ほんとに、ほんとに……また会えて話せるのが、信じられなくて……嬉しくて…、」
「しょうがない子。ほんと、だめだめなんだから、」
だめだめ、ぼやぼや。
どこか懐かしい言い回しに、朱音は昨日思い出しかけた事へ思いを巡らせる。
「………、そうだ、夢で会った……あの山にいた小さな男の子…。あの子は……」
「色々捻じ曲げて会いに来るほど、俺様の事が大好きなんでしょ?おねーさん。………これで移ったら責任取りなよ、」
ギ、とベッドの重心が動き、抱き合う以上に二人の距離が近づいた。