17.目覚めた先へ
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記憶の中にも存在する、顔見知りばかりの空間。
先ほど記憶を取り戻したばかりの身では混乱が続く。
「なんだ?結局何なんだよ、アンタら」
「グランプリを取ったのが、そんなに嬉しいのか?」
「多分違うぞ、小十郎」
幸村に続いてやって来た、政宗と小十郎が異様な空間に眉をひそめる。
感動の涙にしても、勢いが激しすぎる朱音と幸村に引いていないのが奇跡なくらいだ。
「………え、ぐ…ぐらんぷり?」
涙と共に瞬きする朱音に政宗が説明すべく、朱音の目の前にもらったばかりの金色のトロフィー掲げた。婆娑羅学園の校章が鋳造された上質な物だ。
「Yes、晴れて龍虎DININGが企画店グランプリ最優秀賞だ!」
「わぁ…!よ、よかったです…っ!ね、幸村!」
「うむ、うむ…!」
「で、何をそんなに泣いてんだよ」
嗚咽の止まらぬ朱音を落ち着かせようと、背中に伸ばした政宗の手はパシリと佐助が叩き落とした。
「そういうのはこっちでやるからお構いなく」
「泣き止ませてねぇじゃねぇかよ」
「この小十郎、三年間の中で今日が最も良き思い出になりました…」
「オメーは少しくらい会話に入ってこい」
今を生きる人々にとって、魂の底に眠る記憶はあまりにも価値観が乖離している。
朱音のように思い出しかけてパニックに陥ったり、人によってはそれ以上の混乱を引き起こす可能性が十分に考えられる。
故に不用意に刺激すべきものではない。それを承知していたからこそ、幼い頃に思い出していた佐助は誰にも打ち明けてこなかった。
(でもたった一人で……十年以上もこんな記憶を抱えてたなんて…、)
「わ、わ、なんでまた大泣きし始めてんの!?」
「さすけのおばか…!大ばかの破廉恥ですっ!」
「人前で洒落にならない言い方しないの!ってギャッ!イタタ!」
覚えていなくても覚えのあるやり取りに、ぐずる幸村が二人を抱き締める力を強めた。
記憶がなくとも懐かしみ、感情のままに行動する様子からして、幸村もいつかは思い出してしまうのかもしれない。
もしもそうなったら朱音と佐助が全力で幸村を支えるに違いない。そうやってあの時代も生きてきたのだから。
***
妹が泣いているから早く来い。
何人もの生徒からそう声を掛けられ、忠朝は遂に家康と忠勝の胸倉を解放した。
効果は期待できないお説教タイムを中断し、妹がいる方へ急ぐと、言われていた通りの光景が広がっていた。
「……すまぬ、夕方に意地悪しすぎたか。今度ねねに会わせてやるから、そう泣くな、ろく」
「赤子のように泣いて恥ずかしくないのかい?それにいつまで秀吉に引っ付いて…!」
「あ〜ハイハイ!今だけ許してあげてね!生徒会長様の制服が汚れないようちゃあんと俺様が拭いてるから!」
「ひで、ひでよしさんんんん……っ」
生徒会の面々まで巻き込んで、大注目を集めているという想像以上の規模だったが。
本日も散々注目を浴びて疲れ切っている忠朝だが、身内として責任は果たさねばならない。意を決して人垣を割って入り、妹の元へ進んだ。
「何をしている、朱音」
声を掛けた途端、ガバッと朱音は忠朝へ顔を向けた。既に真っ赤な目からまた涙がぼたぼたと零れていく。
「兄上っ!!」
まるで生き別れた相手と再会したかのように、今度は忠朝へ飛びついて来た。
そしてまた大泣きが始まる。振り払おうかと思うより先に朱音が忠朝の身体をよじ登り、絶対離れないポージングを取った。
まるで木に張り付くセミだ。両手両足で忠朝の身体にしがみついている。
「あにうえ……よかった…!大好き、だいすきです……ッ」
流石に忠朝にだけ聞こえる声だったが、涙ながらにそう告げられた。
昔からひっつき虫の妹を恥ずかしさゆえに引き剥がしていたが、泣かれるのだけは今でも苦手だ。どうやら嫌な目にあったわけではなさそうだが、それでも忠朝の内心がざわつく。
「泣くな、いいから」
仕方なく抱き着いたままの朱音を腕で支えてやると、遠慮なく首を埋められた。
「なんかね、今は誰の顔見ても泣いちまうみたいなんだよ」
「昼間のふねより泣いてんじゃねぇか。大丈夫かよ?」
生徒会相手にも物怖じしない、しっかり者の転校生。そんなイメージを持たれていたはずの人物が人目を憚らず号泣している。異様な光景に彼女を知る面々は心配せずにはいられない。
唯一事態を把握している佐助だが、説明する訳にもいかず、今は朱音や幸村を宥める事に専念する。
そんな彼らを遠くから見守る姿があった。
「あれ!どうしたの、小助くん!?」
「……、いや、よくわかんないんだけど、佐助達見てたら…」
キャンドルの光に隠れながら、袖で目元を拭う小助を金吾が心配する。悲しみのような、喜びのような複雑な感情が小助にも湧き起こっている。幸村同様、理由は分からないが、報われたような感覚が心に広がっていく。
「何か食べる?天海先生からもらったお菓子まだあるよ?」
「うはは、ありがと。そうだね、ちょっともらおうかな」
「むむむ〜…」
「やっぱり心配になるよね、鶴姫ちゃん」
「でも、見えるんです……」
朱音の運勢を気に掛けていた鶴姫が、何やら首を傾げている。
慶次が話しかけると訳を話してくれた。
「前に占った時にも見えた、朱音ちゃんと忍さんの手首の灯火……今とってもキラキラしてるんです、」
「じゃあやっぱり…!」
「成就したと思うんですが、それにしても何故あんなにも泣いていらっしゃるのでしょう…?」
「何故か幸村まで大泣きしてるからね、何が何やら…まぁ、嬉しそうにしてるからいいのかな…?」
「……そうですね、きっと!おめでとうございます、朱音ちゃん」